花咲くように 微笑んで
 走り出してしばらくすると、颯真はふと菜乃花の様子を横目で見る。

 「とっても楽しかったですね」

 そう言って笑う菜乃花は、なぜだか哀しげで儚くて…。

 (前にもこんな表情を見たな。確か、披露宴の時だ)

 春樹達の写真を見ながら、お似合いで素敵、と言いつつなぜか寂しそうに微笑んでいた。

 颯真は、窓の外の景色を眺めている菜乃花にもう一度視線を向ける。

 その横顔は思わず見とれてしまう程美しく、同時に胸が締めつけられるような切なさが伝わってきた。

 (なぜだ?柔らかい表情なのに、どうしてこんなに胸が痛くなる?)

 幸せそうにも見えるが、泣きそうにも見える。

 不思議な感覚に囚われながら、颯真は当たり障りない話題を選んだ。

 「えっと、中央図書館で働いてるんだっけ?公園の横にある大きな図書館?」
 「はい、そうです」
 「俺も時々行くよ」
 「そうなんですか?」
 「ああ。医学書や参考書とか、品揃えがいいから。医療雑誌なんかも、古い物も置いてあるだろう?」
 「ええ。書庫にバックナンバーを保管してあります。調査研究用としての映像記録もありますよ。館内視聴のみですが」
 「そうなんだ。それは何階?」
 「地下1階です。医学関係の本なら4階ですけど」
 「うん、いつも4階に行ってる。でも君があそこで働いてるなんて知らなかったな」
 「私は主に絵本や子ども向けの図書の担当なので、いつも1階の奥にいることが多くて」
 「そうか。そこは行ったことがないな」
 「良かったらいつでも覗いてみてください」
 「え、いい年の男が一人でふらっと行っても大丈夫?」
 「もちろん。あ、でもやはり誰でも入れる施設なので、そういった防犯面では私達も目を光らせて気をつけてます」
 「そうだろうな。迷子だけでなく、誘拐とかも?」
 「ええ。それに盗撮とか」
 「うわ!それは大変だ。その上この間みたいに、急に倒れる人もいて」
 「はい。ですので、AEDの使い方や応急手当の講習はきちんと受けています」
 「なるほど」

 そんな話をしているうちに、イルミネーションが綺麗な繁華街に差し掛かった。
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