花咲くように 微笑んで
 「やあ、君だったんだね。やっと会えた」

 何度目かの図書ボランティアの日、持ってきた絵本を並べていると、後ろから声をかけられた。

 白衣を着た優しそうな男性が微笑んで立っている。

 「子ども達が面白い絵本のことを話してくれたんだよ。それにこのコーナー、見違える程可愛らしくなってる。ずっとお礼を言いたかったんだ。ありがとう」

 菜乃花は立ち上がると、向き合って自己紹介をする。

 「初めまして。中央図書館で司書をしている鈴原と申します」
 「初めまして。小児科医の三浦です。司書さんだったのか。ますますありがたいな。宮瀬先生のお知り合いなんだって?」
 「はい、そうです」

 そんなことを話していると、男の子がやって来た。

 「あ、なのか!今日おはなし会?」
 「うん、そうだよ」

 すると三浦が男の子の前にかがんで言う。

 「まさるくん、女の人を呼び捨てにしていいのは恋人だけだよ」
 「えー、じゃあ先生は、なのかって呼んでるの?」
 「呼んでないよ。今会ったばかりだし」
 「じゃあ先生がなのかって呼んだら、恋人になったってことだよな?」
 「ならないよ。やれやれ…」

 三浦は苦笑いして立ち上がる。

 「先生、人気者なんですね」

 菜乃花がクスクス笑って言う。

 「どうだろう?軽く見られてる気もするけど」
 「そんなことないと思いますよ」

 二人の会話に、男の子が菜乃花の手を引っ張りながら割って入る。

 「ねえ、今日は何のおはなし?」
 「今日はね、紙芝居なんだ」
 「えっ!紙芝居?オレ、みんなを呼んでくる」

 おーい、走っちゃダメだぞーという三浦の声を背に、男の子は病室に戻って行った。

 「ごめんね、失礼な態度で」
 「ちっともそんなことないですよ。みんな明るくて可愛いです」
 「そう言ってもらえると助かるよ。あの子達やっぱり病気や怪我で色々我慢してるから、俺もつい甘くなってしまって」
 「そうですよね。ほんの少しの間でも、絵本を読んで楽しい気持ちになってくれたらいいなと思います」
 「ありがとう。今日は俺も少し時間があるんだ。一緒に見させてもらってもいいかな?」
 「えっ!」

 途端に菜乃花は真顔になる。

 「そ、それはちょっと…」
 「ん?どうして?」
 「いえ、あの。冷静に大人の方に見られると恥ずかしくて…」
 「そうなの?じゃあ、隠れてこっそり見るから」
 「それも困ります!あ、それなら先生も参加していただけませんか?」
 「は?俺も?」

 今度は、三浦が真顔に戻った。

 「はい。今日の紙芝居、王子様とお姫様のお話なんです。先生、王子様のセリフを読んでいただけませんか?子ども達もきっと喜びます」
 「ええー?!そんな。出来るかな?」
 「もちろん!」
< 44 / 140 >

この作品をシェア

pagetop