花咲くように 微笑んで
 その時、男の子が大勢の子ども達と一緒に戻ってきた。

 「なのかおねえさん、こんにちはー!」
 「こんにちは。みんな揃ったかな?」
 「うん。今日は紙芝居なの?」
 「そうよ。じゃあ早速始めましょう」

 菜乃花がプレイマットの上に正座すると、子ども達も慣れたように近くに集まって座る。

 菜乃花は三浦を手招きして、隣に座ってもらった。

 「あれ?しんじ先生もやるの?」
 「え、いや、あの」
 「そうなの。みんなも先生を応援してあげてね」

 菜乃花がそう言うと、子ども達は盛り上がる。

 「うわー、先生できるの?」
 「がんばって!しんじ先生」
 「あ、ああ。うん。がんばるよ」

 クスッと笑って、菜乃花は早速大きな紙芝居を膝に載せた。

 「ではみんな、始まるよ。むかーしむかし。ある国に、きれいなお姫様が住んでいました」

 子ども達は静かに絵を見ながら菜乃花の話に聞き入る。

 「ある日、隣の国の王子様がやって来て、お城の前を通りかかりました。すると、美しい歌声が聴こえてきます」

 そこまで読むと、菜乃花は隣の三浦に目配せする。

 ん?という顔をしてから、菜乃花が指を差しているセリフに目を落とす。

 「えっと…。『おお、なんと美しい歌声なのだろう。いったい誰が歌っているのだ?』」

 たどたどしい読み方に、子ども達は、あはは!と笑う。

 「しんじ先生、王子様なんだから。かっこよくね」
 「あ、うん。えー、『美しい姫君。あなたなのですか?』」

 菜乃花は、ふふっと笑ってから話を続ける。

 「お城の窓から顔を出していたお姫様は、恥ずかしくて隠れてしまいました」
 「え、あ、俺?えっと『待ってください、姫君!せめてお名前だけでも!』」

 慣れてきたのか、だんだん感情がこもってくる。
 だが、子ども達はおかしそうに笑った。

 「しんじ先生、フラレちゃったの?」
 「あーあ、もったいない」

 「そんなこと言われたって…」

 子ども達の言葉に、三浦はタジタジになる。

 「王子様は、なんとかしてもう一度お姫様に会おうとしました。けれど、どんなに声をかけてもお姫様は現れてくれません」

 菜乃花が先を読み進めると、子ども達は更に三浦に詰め寄る。

 「先生、そんなんじゃダメだよ」
 「そうよ。もっと強引にいかなきゃ」

 「え、ええー?!俺のせいなの?」

 どちらが子どもか分からない。
 大人びた子ども達に、三浦は更に眉根を寄せる。

 「そこで王子様は、思いつきました。『そうだ!この竪琴(たてごと)を持っていこう!』そしてお城の下に来ると、綺麗な音色で竪琴を弾き始めました。するとどうでしょう。王子様の弾く音に合わせて、美しい歌声が響いてきました」

 「えっと、『姫君、やはりあなただったのですね?』」

 「窓から顔を出したお姫様は、王子様に頷きました。『あなたの弾く竪琴は、なんて綺麗な音色なのでしょう。もっと聴かせてくださいな』」
 『あなたの為なら、いくらでも』

 「王子様はまた竪琴を弾き始め、お姫様も歌い出します。美しい音は国のあちこちまで響き渡り、人々の心を明るくしました。鳥も、花も、森も。みんなが幸せに包み込まれ、国は平和になりました」

 『姫君、どうか私と結婚してくれませんか?私はいつまでも、あなたと一緒に暮らしていきたいのです』
 『はい。私もあなたの音色をいつまでも聴いていたいです』

 「こうして二人は結婚しました。二つの国は一つになり、いつまでも平和に暮らしました。綺麗な二人の音色と共に…。おしまい」
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