花咲くように 微笑んで
 「なのかおねえさん、さようなら」
 「さようなら。気をつけて帰ってね」

 最後の親子を見送ると、菜乃花はちらりと奥のベンチに目をやった。

 膝に両肘をついて座り、組んだ手に顔を伏せてじっとうつむいている颯真に、菜乃花は小さくため息をついてから立ち上がる。

 カウンターに行くと、館長と谷川に声をかけた。

 「館長、谷川さん、すみません。もし業務が大丈夫なら、私、今日は半休を取らせていただいてもよろしいでしょうか?」
 「ん?どこか具合が悪いの?」
 「いえ、そういう訳ではないのですが」

 すると館長も谷川も、笑顔で頷いた。

 「それなら良かった。今日はもういいから、帰りなさい」
 「そうよ。菜乃花ちゃん、休みの日もボランティアしてるんでしょ?たまにはゆっくり、自分の時間を楽しんでね」
 「ありがとうございます。それではお言葉に甘えて、お先に失礼いたします」
 「はーい、気をつけてね」

 菜乃花は荷物をまとめると、颯真のもとへと行く。

 おはなし会の間、思い詰めた表情で話を聞いていた颯真に気づいていた。

 今もじっとうつむいたままの颯真からは、ただならぬ悲壮感が伝わってくる。

 「宮瀬さん」

 菜乃花は控えめに声をかけた。

 ぴくりと肩を震わせると、颯真は親指と人差し指でぎゅっと目頭を押さえてから、ゆっくりと顔を上げる。

 「こんにちは」と微笑む菜乃花に、颯真は少し照れたように笑った。

 「こんにちは。ごめん、不審者に見えたかな?」
 「いいえ。誰よりもおまじないが必要な人に見えました」

 え?と颯真は首を傾げる。

 「宮瀬さん、外に出ませんか?」

 そう言うと菜乃花はくるりと向きを変え、スタスタと歩き始めた。

 颯真は一瞬呆気に取られてから、鞄を手に立ち上がり、あとを追った。
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