花咲くように 微笑んで
 「うわ、綺麗だな」
 「ええ。ちょうど今、満開ですね」

 図書館に隣接する公園に行くと、小高い丘の上に見頃を迎えた菜の花畑が広がっていた。

 「半分どうぞ」

 近くのベンチに座ると、菜乃花は颯真にお弁当を差し出す。

 朝、家で作ってきた手鞠おにぎりが4つと、ほうれん草のお浸しや卵焼きなどが詰めてある。

 「え、君のお昼ご飯でしょ?もらえないよ」
 「宮瀬さん。最後に食事したのはいつですか?」
 「食事?えっと…いつだろう」

 夕べは夜勤に備えて早めに夕食を取ろうと思っていたのだが、ICUの人手が足りずに勤務前に手伝うことになった。
 そのまま夜勤に入り、あの女の子達が運ばれてきて…。

 夜勤が明けてからも、食事をする気も仮眠を取る気にもなれなかった。
 マンションに帰るにも気が重く、まるで気持ちのやり場を探すように、ふらふらと図書館にやって来たのだった。

 「宮瀬さん。医学的に考えたら、私と宮瀬さんのどちらが今これを食べるべきだと思いますか?」
 「それは、その…」
 「身体が元気にならなければ、心も元気になれませんよ。少しだけでも食べてください。私の手作りが不味そうで食べられないなら、何か買ってきますけど」
 「まさか!そんな」
 「それなら、どうぞ」

 颯真はおずおずと手を伸ばし、小さな丸い手鞠おにぎりを手にする。

 「いただきます」
 「はい。召し上がれ」

 ゆっくりとラップをめくると、桜でんぶと錦糸卵で飾られた可愛いおにぎりを口に運ぶ。

 「…美味しい」
 「良かったです」

 菜乃花はステンレスボトルから温かいお茶をコップに注ぐと、颯真に手渡した。

 噛みしめるようにおにぎりを味わい、お茶を飲んでホッとひと息つく。

 そんな颯真を見て少し微笑むと、菜乃花もおにぎりを食べ始めた。

 「卵焼きも、半分どうぞ」
 「ありがとう」

 二人で一つのお弁当を分け合う。
 食べ終わると、ご馳走様でした、と颯真は菜乃花に頭を下げた。
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