花咲くように 微笑んで
第八章 突然のプロポーズ
「鈴原さん、こんにちは」
「三浦先生!こんにちは」
図書ボランティアで訪れたみなと医療センターの小児科病棟。
いつものように本を並べ替えていると、三浦が現れた。
時間が合う時はおはなし会に参加してくれる三浦と、菜乃花はすっかり打ち解けていた。
子ども達も、三浦が参加する日は王子様とお姫様の話をリクエストして、「先生、がんばれ!」と応援しながら楽しんでいた。
「いつもありがとう、鈴原さん」
「いいえ、こちらこそ」
「あのね、実はこれを預かっていたんだ。りょうかちゃんから、なのかおねえさんへって」
「りょうかちゃんから、ですか?」
首を傾げながら、三浦が差し出したピンクの封筒を受け取る。
可愛らしい文字で『なのかおねえさんへ』と書かれ、ハートや星のマークもたくさん散りばめられていた。
菜乃花は封筒から取り出した手紙を読む。
『なのかおねえさんへ
いままでたくさん本をよんでくれて ありがとう
ずっとびょういんにいて まいにちげんきがでなかったけど
なのかおねえさんがきてくれる日は すごくうれしかったよ
いろんなおはなしをおしえてくれて ありがとう
こんどは としょかんにあいにいくね
たのしみにまっててね
りょうかより』
読み終わった菜乃花は、思わず三浦の顔を見る。
「あの、これって、りょうかちゃんは…」
「ああ。無事に先週、退院したんだ」
「そうなんですね!良かった…」
菜乃花は手紙を胸に当てて微笑む。
りょうかは大人しく控えめな女の子で、おはなし会でもいつも一番後ろに座っていた。
自分から話しかけてくれることはなかったが、菜乃花が「楽しかった?」と声をかけると、「うん」とはにかんだように頷いてくれる、笑顔が可愛い子だった。
「りょうかちゃん、元気になっておうちに帰れたんですね。良かったなあ。それにこんなに嬉しいお手紙を書いてくれたなんて。私、宝物にします」
菜乃花が満面の笑みを向けると、三浦は驚いたような表情をしてからうつむいた。
「先生?どうかしましたか?」
「いや、ちょっと感動してしまって」
ん?と菜乃花は首をひねる。
「だって君は医師でも看護師でもない。それなのに、こんなにもりょうかちゃんの退院を喜んでくれるなんて。それにりょうかちゃんも、君のおかげで元気になったんだ。おはなし会を本当に楽しみにして、だんだん笑顔も増えてね。主治医として、心からお礼を言うよ。本当にありがとう」
「いえ、そんな。私なんかが少しでもお役に立てたのなら、こんなに嬉しいことはありません。私の方こそ、いつも子ども達に幸せな気持ちにしてもらっています。ありがとうございます」
「まったく。君はどこまで純真なんだろう」
三浦はしばらくじっと足元に視線を落としていたかと思うと、急に意を決したように顔を上げて菜乃花を見つめた。
「鈴原さん。僕と結婚してもらえませんか?」
「…は?」
菜乃花は、ぱちぱちと瞬きをくり返す。
「結婚?って、あの結婚ですか?」
「そう。その結婚」
「えっと、恋人同士が婚姻届を提出して一緒に暮らすっていう、あの結婚ですよね?」
「うん。その結婚」
「でも私と三浦先生は恋人同士ではないですから、結婚はおかしくないですか?」
「そうかな?」
「はい、多分」
二人で冷静に結婚について議論する。
「俺は、恋人については想像出来ないんだ。誰かにつき合って欲しいと言われても断ってしまう。でも、君と結婚するのは想像出来る。というより、君と結婚したい。子ども達に優しく接する君を見て、自分の子どもが欲しくなってしまった。君と一緒に大切に子どもを育てていきたい。そんな未来を望んでしまった。これって、君に対して失礼な話だろうか?」
真顔で聞かれて、菜乃花も真剣に考え込む。
「いえ、私は失礼だとは思いませんけど」
「じゃあ、結婚してくれる?」
「そう言われると、ちょっと考え込んでしまいます」
「そうか、そうだよね。もちろんゆっくり時間をかけて考えてくれて構わない。あ、履歴書とか作って渡そうか?俺の素性が心配だったら」
「履歴書…は大丈夫です。先生はちゃんとした方だと分かっていますし」
「そう?じゃあ、他にも何か知りたいことあったら、いつでも聞いてね」
「はい、ありがとうございます」
「それじゃあ、また」
「はい。失礼します」
菜乃花はお辞儀をして見送った。
「三浦先生!こんにちは」
図書ボランティアで訪れたみなと医療センターの小児科病棟。
いつものように本を並べ替えていると、三浦が現れた。
時間が合う時はおはなし会に参加してくれる三浦と、菜乃花はすっかり打ち解けていた。
子ども達も、三浦が参加する日は王子様とお姫様の話をリクエストして、「先生、がんばれ!」と応援しながら楽しんでいた。
「いつもありがとう、鈴原さん」
「いいえ、こちらこそ」
「あのね、実はこれを預かっていたんだ。りょうかちゃんから、なのかおねえさんへって」
「りょうかちゃんから、ですか?」
首を傾げながら、三浦が差し出したピンクの封筒を受け取る。
可愛らしい文字で『なのかおねえさんへ』と書かれ、ハートや星のマークもたくさん散りばめられていた。
菜乃花は封筒から取り出した手紙を読む。
『なのかおねえさんへ
いままでたくさん本をよんでくれて ありがとう
ずっとびょういんにいて まいにちげんきがでなかったけど
なのかおねえさんがきてくれる日は すごくうれしかったよ
いろんなおはなしをおしえてくれて ありがとう
こんどは としょかんにあいにいくね
たのしみにまっててね
りょうかより』
読み終わった菜乃花は、思わず三浦の顔を見る。
「あの、これって、りょうかちゃんは…」
「ああ。無事に先週、退院したんだ」
「そうなんですね!良かった…」
菜乃花は手紙を胸に当てて微笑む。
りょうかは大人しく控えめな女の子で、おはなし会でもいつも一番後ろに座っていた。
自分から話しかけてくれることはなかったが、菜乃花が「楽しかった?」と声をかけると、「うん」とはにかんだように頷いてくれる、笑顔が可愛い子だった。
「りょうかちゃん、元気になっておうちに帰れたんですね。良かったなあ。それにこんなに嬉しいお手紙を書いてくれたなんて。私、宝物にします」
菜乃花が満面の笑みを向けると、三浦は驚いたような表情をしてからうつむいた。
「先生?どうかしましたか?」
「いや、ちょっと感動してしまって」
ん?と菜乃花は首をひねる。
「だって君は医師でも看護師でもない。それなのに、こんなにもりょうかちゃんの退院を喜んでくれるなんて。それにりょうかちゃんも、君のおかげで元気になったんだ。おはなし会を本当に楽しみにして、だんだん笑顔も増えてね。主治医として、心からお礼を言うよ。本当にありがとう」
「いえ、そんな。私なんかが少しでもお役に立てたのなら、こんなに嬉しいことはありません。私の方こそ、いつも子ども達に幸せな気持ちにしてもらっています。ありがとうございます」
「まったく。君はどこまで純真なんだろう」
三浦はしばらくじっと足元に視線を落としていたかと思うと、急に意を決したように顔を上げて菜乃花を見つめた。
「鈴原さん。僕と結婚してもらえませんか?」
「…は?」
菜乃花は、ぱちぱちと瞬きをくり返す。
「結婚?って、あの結婚ですか?」
「そう。その結婚」
「えっと、恋人同士が婚姻届を提出して一緒に暮らすっていう、あの結婚ですよね?」
「うん。その結婚」
「でも私と三浦先生は恋人同士ではないですから、結婚はおかしくないですか?」
「そうかな?」
「はい、多分」
二人で冷静に結婚について議論する。
「俺は、恋人については想像出来ないんだ。誰かにつき合って欲しいと言われても断ってしまう。でも、君と結婚するのは想像出来る。というより、君と結婚したい。子ども達に優しく接する君を見て、自分の子どもが欲しくなってしまった。君と一緒に大切に子どもを育てていきたい。そんな未来を望んでしまった。これって、君に対して失礼な話だろうか?」
真顔で聞かれて、菜乃花も真剣に考え込む。
「いえ、私は失礼だとは思いませんけど」
「じゃあ、結婚してくれる?」
「そう言われると、ちょっと考え込んでしまいます」
「そうか、そうだよね。もちろんゆっくり時間をかけて考えてくれて構わない。あ、履歴書とか作って渡そうか?俺の素性が心配だったら」
「履歴書…は大丈夫です。先生はちゃんとした方だと分かっていますし」
「そう?じゃあ、他にも何か知りたいことあったら、いつでも聞いてね」
「はい、ありがとうございます」
「それじゃあ、また」
「はい。失礼します」
菜乃花はお辞儀をして見送った。