花咲くように 微笑んで
第二章 すっぴんの再会
 翌朝、朝食を食べながらどこに買い物に行こうかと考えていた菜乃花は、突然鳴り出したスマートフォンに驚いて慌てて表示を見る。

 「えっ!どうして…」

 あれだけ忘れようと心に決めた春樹からの着信だった。

 (連絡先、消去しておけば良かったな。あ、私が消去したところで、先輩からはかかってきちゃうか)

 ぶつぶつと考えてから、とにかく出てみることにした。

 「もしもし」
 「あ、菜乃花?朝からごめん。昨日はありがとな」
 「いえ、こちらこそ。素敵な結婚式にお招きいただきありがとうございました」
 「ありがとう。ところで菜乃花、化粧ポーチ失くしてない?」
 「は?」

 思わぬ言葉に、菜乃花は拍子抜けする。

 「ポーチ、ですか?」
 「うん。実はさっき、昨日菜乃花達と同じテーブルだった俺の同級生から電話があってさ。引き出物の紙袋の中に、Nってイニシャルのポーチが入ってたって。写真撮って送ってもらったら、なんか菜乃花が持ってそうな感じのポーチなんだ。薄いオレンジ色で、花の刺繍が入ってる…」
 「あ!それ私のです」

 そう言って、急いで記憶をたぐる。

 (確か披露宴の途中で化粧室に行って、戻って来てからバッグにポーチを入れようとしたらキャンドルサービスが始まったから、取り敢えず引き出物の紙袋に入れたんだっけ)

 それから…えっと?と考え込み、あ!と声を上げる。

 「私、自分の紙袋を間違えてお隣の男性に渡してしまったかも!」
 「ああ、そうみたいだな。途中で退席した時、追いかけて渡してくれたってそいつが言ってる」
 「ごめんなさい!間違えて渡すなんて、私ったら失礼なことを…」
 「ははは!菜乃花のおっちょこちょいは今も健在だな」

 恥ずかしくて顔が赤くなる。

 「本当にすみません。私、その方のご自宅まで取りに伺います」
 「いや、そいつが今から届けに行くってさ。菜乃花、今日休み?だったら菜乃花の最寄駅のロータリーに11時に待ち合わせでいいか?」
 「いえ!あの、そんな。私のミスですから、私が伺います」
 「でも化粧ポーチがないってことは、すっぴんで電車に乗って取りに行くことになる。女の子にそんなことさせちゃいけないって有希が言うんだ。だから気にするな」

 (ゆきさん?あ、奥様か)

 昨日の幸せそうな新婦の姿を思い出す。

 (綺麗な上にそんな気遣いもしてくださるなんて。本当に素敵な人だなあ)

 ぼんやり考えていると、「じゃあ、そういうことで」と電話を切られそうになる。

 「あ!あの、春樹先輩。私、すっぴんでも全然構わないので、私がその方の所へ…」

 そこまで言った時、ふいに電話口の向こうからアナウンスの声が聞こえてきた。

 『日本ウイング航空 841便にてシンガポールにご出発のお客様は…』

 ん?と菜乃花は首をひねってから、すぐに状況を把握した。

 「すみません!先輩、これから新婚旅行に行かれるんですね?」
 「そうなんだ。今空港で、あんまり時間がなくて」
 「分かりました!では11時にその方と待ち合わせでお願いします」
 「了解、伝えておくよ。じゃあな」
 「はい、ありがとうございました。先輩、素敵な新婚旅行を」
 「おう!ありがとな」
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