花咲くように 微笑んで
 「ねえ、コンビニ寄ってもいい?」
 「ああ。俺も飲み物買いたい」

 帰る前に1階のコンビニに立ち寄ると、有希はスポーツドリンクに手を伸ばした。

 すると、同じようにドリンクを取ろうとした近くの男性と手が触れ合う。

 「あっ、失礼」
 「いえ、こちらこそ」

 どうぞと手で促す男性に会釈して、有希はドリンクを手に取った。

 「ありがとうございました」

 礼を言って場所を譲ると、男性はにこりと笑いかけてきた。

 (わー、優しいイケメン。白衣着てるからドクターかな。ん?)

 左胸のIDカードに目をやった有希は、驚いて男性の横顔をまじまじと見つめる。

 (小児科医 三浦…って、この人が菜乃花ちゃんにプロポーズしたドクター?)

 男性はドリンクを選ぶと、もう一度有希に微笑んでからレジへと向かった。

 「は、春樹!ちょっと!」
 「ん?何だよ」
 「あの人よ!ほら、例のプロポーズドクター!」
 「ええ?!あの人が菜乃花に?」

 二人して商品の棚の影から、会計をしているドクターを覗き見る。

 レジの前を離れて出口に向かったドクターは、入って来た親子に話しかけられ足を止めた。

 どうやら患者の子どもとその母親らしい。
 かがんで視線を合わせると、その子の頭をくしゃっと撫でながら声をかけ、にっこり笑ってから立ち上がる。

 去って行く後ろ姿を、母親がうっとりと眺めていた。

 「うわー、爽やか!愛想がいいイケメンって、最強だな」

 妙に感心した口調で春樹が言う。

 「あの人が菜乃花ちゃんにプロポーズを?嘘でしょ。颯真先生に負けず劣らずのジェントルイケメンじゃない」
 「有希、お前ちょいちょい変なあだ名つけるな」
 「何のんきなこと言ってるの!あの人が相手じゃ、颯真先生もおちおちしてられないわよ」
 「そんなこと言ったって、俺達にはどうしようもないだろ?ほら、とにかく出よう。いい加減怪しまれる」

 仕方なく、有希は春樹と会計を済ませて帰路についた。
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