花咲くように 微笑んで
 エレベーターの中で、颯真はぼんやり考える。

 (本当にいい先生だな、三浦先生って)

 誰に対しても笑顔を絶やさず、穏やかで優しいドクターだ。

 (三浦先生なら、きっと彼女を幸せにしてくれるだろう)

 マンションで、肩を震わせながら泣き続けた菜乃花のことを思い出す。
 あの時菜乃花を抱きしめた感触が、今も手に残っていた。

 何年もずっと挫折を抱えていた彼女。
 春樹に対しても、先輩以上の感情を持っていただろう。
 想いが叶わなかった寂しさも抱えていたに違いない。

 (三浦先生となら、彼女は幸せになれる。きっと優しく包み込んでもらえる)

 今は、ボランティアの日程も直接小児科のナースとやり取りしてもらっている為、自分と菜乃花の接点は何もない。

 これから先も、もう菜乃花に連絡することはないだろう。

 (二人ともどうかお幸せに…)

 心の中で三浦と菜乃花にそう呟いてから、颯真は顔を上げてエレベーターを降りた。
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