君を愛していいのは俺だけだ~コワモテ救急医は燃える独占欲で譲らない~
 電話を切り、菜乃花はふうと小さく息をつく。

 「びっくりしたなあ」

 そして改めてバッグの中と引き出物が入っていた紙袋を確認する。
 やはりどこにも化粧ポーチはなかった。

 昨日、あの男性が引き出物を持たずに出て行ったのに気づいた時、慌てて自分の紙袋を掴んでしまったのだろう。

 (私ったら…。ありがた迷惑とはこのことね)

 とにかく約束の時間を守り、お会いしてきちんと謝罪しようと、菜乃花は急いで支度を始めた。

 とはいえ、もちろん化粧は出来ず…。
 アイボリーのニットに赤いスカートを合わせると、肩下まである髪を軽く巻いた。

 ロングブーツを履き、コートを羽織ってから玄関の姿見を覗き込む。

 「あはは、すっぴんの顔だけ浮いてる」

 この顔なら、スウェットの上下にボサボサの髪型、サンダルを履いた方がトータルコーディネートとしてはいいだろう。

 だが、わざわざポーチを届けに来てくれる男性にそんな姿でお礼を言う訳にはいかない。

 菜乃花は仕方なく自分を納得させて玄関を出た。
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