花咲くように 微笑んで
 「せん、せい?」
 「菜乃花ちゃん!気がついた?」

 ぼんやりと目を開けた菜乃花の顔を、三浦が心配そうに覗き込む。

 「気分はどう?めまいとか吐き気はない?」
 「はい、大丈夫です。私、どうして…。ここは?」
 「みなと医療センターのERだ。菜乃花ちゃん、覚えてない?男の子をかばって…」

 あ!と菜乃花が目を見開く。

 「そうだ、あの男の子は?どうなったんですか?」
 「無事だよ。驚いて泣いてたけど、膝を擦りむいただけだった。君が身を挺してかばってくれたおかげだって、お母さんが泣いて感謝してた」
 「そうだったんですね、良かった…」

 ホッとしたように呟くと、三浦がたまらないという表情になる。

 「ごめん、菜乃花ちゃん。俺がついていながら、本当に申し訳ない」
 「そんな…。先生が謝ることなんて」
 「いや、医者としても男としても、本当に情けない。大切な君にこんな怪我を…」
 「ですから、先生のせいなんかじゃありません。それとも、そんなに悪いんですか?私の容体」
 「いや。CTの結果も問題はなかったよ。ただ、脳震盪でしばらく意識がなかったから、数日間は安静にして様子をみたい。君のご両親にも、俺から電話でお詫びしたいんだけどいいかな?」
 「いえいえ。突然先生が電話したら、それだけで両親はパニックですよ。私からかけますから、ご心配なく」
 「そう。本当に申し訳ない」

 三浦は深々と頭を下げる。

 「もう、本当に大丈夫ですって」

 すると、二人のやり取りを後ろから見ていた塚本が声をかけた。

 「三浦先生、そろそろ」
 「あ、はい。申し訳ありません」
 
 立ち上がると、もう一度菜乃花の顔を覗き込んだ。

 「じゃあね、菜乃花ちゃん。ゆっくり休んで」
 「はい、ありがとうございます」

 小さく頷くと、よろしくお願いしますと塚本に頭を下げてから三浦は部屋を出て行った。
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