花咲くように 微笑んで
 検査結果を聞き、ナースがかけてくれた電話で母親と話したあと、とにかく今はゆっくり休むようにと塚本に言われて菜乃花は目を閉じる。

 日頃の身体の疲れもあってか、すぐに眠気に誘われた。

 菜乃花が眠ったのを見て、颯真はようやく菜乃花のそばにいく。

 手足の傷が少しでも早く綺麗に治るようにと、丁寧に消毒してガーゼを交換した。

 「宮瀬先生。あとは夜勤のスタッフが看ますから」

 申し送りを終えてとっくに勤務時間が終わったにも関わらず、菜乃花のそばから離れない颯真に看護師長が声をかける。

 それでも颯真は頑なに動かなかった。

 夜が更け、静かなERに菜乃花の心電図モニターの音だけが響く。

 今夜は他に救急搬送はなく、広い部屋には菜乃花しかいない。

 ナースもドクターも比較的リラックスしている中、颯真だけは悲痛な表情で菜乃花を見守っていた。

 やがて菜乃花の呼吸が荒くなってきたのに気づく。
 頬も心なしか赤くなっていた。

 そっと額に触れてみると、明らかに熱い。

 「熱発です。体温計を」
 「はい」

 ナースに声をかけると、すぐに近づいて来て菜乃花の体温を測った。

 「38度5分です」

 颯真は点滴とクーリングの指示を出す。

 (頑張れ。早く良くなりますように…)

 医者なのに、思わず神様に祈る。

 (どうかこれ以上悪化せず、後遺症も残りませんように。身体の傷も綺麗に治りますように)

 心の中で祈りながら、颯真は一晩中菜乃花につき添っていた。
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