花咲くように 微笑んで
 最後に颯真がベッドを離れ、ふと振り返って菜乃花のベッドに目を向ける。

 菜乃花とバッチリ目が合ってしまった。

 思わず布団の中に顔を埋めようとすると、颯真がふっと笑って近づいてきた。

 「ごめん。騒がしくて起こしちゃったね」
 「いえ。あの、おばあさんは?大丈夫でしたか?」
 「ああ。もう落ち着いたよ」
 「そう、良かった」

 すると颯真は、ちょっといい?と菜乃花の腕を取る。

 「傷も少しずつ良くなってる。痛みはない?」
 「はい、大丈夫です」
 「んー、もしかして、どちらかと言うと敏感肌?」
 「はい。洋服が擦れた所が赤くなったりします。家では毎晩保湿クリームを使ってて…」
 「そうだよね。ちょっと待ってて」

 そう言うと立ち上がり、しばらくすると何かを手にして戻って来た。

 「えっと、薬のアレルギーはなかったよね?」

 菜乃花の電子カルテを見ながら確認する。

 「はい、ありません」
 「じゃあ保湿ローション塗っておくね。腕、貸してくれる?」

 え?と戸惑う菜乃花をよそに、颯真は菜乃花の袖をまくり、手のひらにローションを出すと、傷口を避けて優しく塗り込んでいった。

 温かく大きな手のひらでマッサージされるような感覚に、菜乃花はホッとして癒やされる。

 そしてふと、夕べの感覚を思い出した。

 優しく額を撫でられ、包み込まれるような安心感を覚えたことを。

 (あれも、ひょっとして…?)

 そう思った時、「はい、いいよ」と颯真が菜乃花の袖を戻して整えた。

 「ありがとうございます」
 「他に何か気になることはない?」
 「はい。もうすっかり普段の体調に戻りました」
 「それなら良かった」

 颯真は菜乃花のカルテに入力しながら、何気なく言う。

 「君、3月が誕生日なんだね。だから名前が菜乃花なのか」

 ふふっと菜乃花は笑い出す。

 「宮瀬さん、またダジャレ」
 「あ!ごめん」
 「いいえ。ふふふ」

 一度笑い出すとおかしくて止まらない。

 「宮瀬さんって、真面目にボケるから余計におかしいです」
 「いや、ボケてるつもりは…」
 「そうなんですね。ふふふ…」

 菜乃花の笑顔に颯真も頬を緩める。
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