花咲くように 微笑んで
第十二章 同棲生活
 「菜乃花ちゃん。気分はどう?」
 「先生!もうすっかり元気です」

 朝になり、診察を受けた菜乃花は無事に一般病棟に移った。

 勤務の合間に三浦が病室まで様子を見に来てくれたのだが、妙に暗い表情なのが菜乃花は気になる。

 「先生?どうかしましたか?」
 「あ、うん。菜乃花ちゃん、改めて謝罪するよ。君にこんな大怪我を負わせてしまって本当に申し訳ない。守れなくて悪かった」
 「そんな。先生のせいじゃないですってば」
 「いや、俺はあの時君を一人にするべきじゃなかった。ずっと君のそばについていなければいけなかったんだ」

 彼みたいに…と小さく呟いた言葉が聞き取れず、菜乃花は首を傾げる。

 「誰…ですか?」

 だが菜乃花の問いには答えず、三浦は思い詰めたようにうつむいたままだった。

 「先生?なんだかいつもの元気な先生とは別人みたいです。本当にどうしたんですか?どこか具合でも?」
 「俺は大丈夫だ。それより菜乃花ちゃんこそ、本当にもう平気?」
 「はい。明日か明後日には退院出来るそうです」
 「そうなんだ。退院って、ひとり暮らしのマンションに帰るの?実家ではなくて?」
 「もちろんです。仕事もありますし、実家は遠方なので」
 「え、もう仕事に復帰するつもり?ひとり暮らししながら?」

 何をそんなに驚くことがあるのだろうと思いながら、菜乃花は、はいと頷いた。

 「その話、塚本先生にはしたの?」
 「え?いえ、特には。でも、退院してもいいってことは、普段の生活に戻っても大丈夫ってことでしょう?それに体調も、すっかり元に戻ったし」

 それを聞いて、三浦はじっと何かを考え込む。

 「先生?」
 「あ、ごめん。とにかく今はまだゆっくり休んでね。また来るよ」
 「はい」

 菜乃花に優しく笑いかけてから、三浦は病室を出た足でERに向かった。
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