花咲くように 微笑んで
 「菜乃花ちゃん!もう本当に心配したんだから」

 午後になって、有希が見舞いに現れた。

 「有希さん、わざわざすみません。体調は大丈夫ですか?」
 「それはこっちのセリフよ。もう大丈夫なの?菜乃花ちゃん」
 「はい、すっかり良くなりました」
 「そう。それなら良かった。あ、これね。お見舞いのお菓子。食べてもいいなら食べてね」
 「ありがとうございます。わあ、『ロージーローズ』だ。嬉しい!」
 「ふふ、喜んでもらえて私も嬉しいわ。あと、これも」
 「え?何ですか?」

 怪訝そうに菜乃花は紙袋を受け取る。

 「颯真先生から聞いたの。菜乃花ちゃん、怪我をした時に着ていたお洋服が血で汚れてしまったって。だから、退院する時に良かったらこれを着て。ワンピースなの」
 「ええ?!いいんですか?」
 「もちろん!菜乃花ちゃんに似合うと思うんだ」
 「ありがとうございます!とっても助かります」

 母親には、遠いし大した怪我ではないから見舞いに来なくていいと断っていた。

 入院中はパジャマをレンタル出来るが、そう言えば退院の時の服装のことはすっかり忘れていたから、有希の気遣いはありがたい。

 「それにしても、本当にびっくりしたわ。颯真先生が春樹に電話してきたんだけど、もの凄く思い詰めてて、春樹も言葉が出て来なかったって」
 「そうだったんですね」
 「うん。『菜乃花も心配だし、颯真も同じくらい心配だ』って春樹が言ってた」
 「ご心配おかけしました。先輩にもよろしくお伝えください」
 「分かったわ。颯真先生は?ここには来るの?」
 「いえ。基本的に一般病棟には来ないみたいです」
 「そうなのね。少しでも会いたかったなあ」

 そのあとは、大きくなってきた有希のお腹を触らせてもらったり、赤ちゃんの話題で楽しくおしゃべりした。
< 83 / 140 >

この作品をシェア

pagetop