花咲くように 微笑んで
 無事に退院の日を迎え、菜乃花は病室で有希からもらったワンピースに着替える。

 (わあ、可愛い。大丈夫かな、私に似合うかな?)

 薄いクリームイエローのワンピースは、袖がふわっと柔らかく、ウエストから広がるスカートも生地をたっぷり使ってふんわりと揺れる。

 まるで春風みたいに爽やかだな、と菜乃花は思った。

 所持品のバッグから、デートだからと珍しく入れていた化粧ポーチを取り出し、軽くメイクをする。

 最後に塚本から話があった。

 「それでは鈴原さん。この先も1ヶ月は激しい運動は避けてください。転んだりしないように気をつけて。それから、めまいや吐き気など、いつもと違う症状があればすぐに連絡してください」
 「はい、分かりました」
 「まあ、三浦先生がついてるから大丈夫でしょう。何かあったら三浦先生に相談してね」
 「あ、は、はい」

 菜乃花は思わず顔を赤くしてうつむく。

 三浦から「退院したらしばらく俺のマンションで過ごして欲しい」と言われ、菜乃花は、ええ?!と驚いた。

 すぐさま断ったが、頑として三浦は譲らず、延々と説得されて仕方なくそうすることになっていた。

 「じゃあ、行こうか。菜乃花ちゃん」
 「はい」

 退院手続きを済ませて戻って来た三浦に促され、菜乃花は改めて塚本に頭を下げた。

 「塚本先生、本当にありがとうございました。お世話になりました」
 「とんでもない。男の子の命を救った君が、大事に至らなくて良かった。この先もしばらくは気をつけて生活してね」
 「はい。ありがとうございます」

 そして菜乃花は、半休を取った三浦と一緒に病室をあとにした。
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