花咲くように 微笑んで
 「ふう。暇だなあ」

 リビングのソファで一人、菜乃花は時間を持て余す。

 職場に電話して館長に退院の報告と復帰の日を伝えると、お大事にねと労ってくれた。

 (そうだ、有希さんにも報告しよう。ワンピースのお礼も言いたいし)

 菜乃花は早速有希に電話をかける。

 「もしもし有希さん?」
 「菜乃花ちゃん!無事に退院出来た?」
 「はい。有希さんに頂いたワンピース、とっても可愛いです。ありがとうございました」
 「いいえ。それより、何かお手伝いに行こうか?食料品の買い出しとかあるでしょ?」
 「いえ、それが…」

 菜乃花は、しばらく三浦のマンションで生活することになったと説明する。

 「ええ?!そ、それは同棲ってこと?」
 「いえ。心配だからってつき添ってもらってる感じです。経過観察の為の居候、みたいなものですかね?」
 「でも結局は同棲してるってことでしょ?あー、なんてこと。そんなに一気に進展するなんて。まさか菜乃花ちゃん、もうお返事したの?」
 「お返事?って、何の?」
 「もちろん、プロポーズよ」

 あ!と菜乃花は思い出す。

 「すっかり忘れてました」
 「じゃあ、まだなのね?」
 「はい。そんな話にもならないから、もう取り下げられたのかもしれません」
 「まさか!だったら同棲なんてしないでしょ?」
 「ですから、同棲ではなくて居候ですって」
 「同棲も居候も一緒よ。菜乃花ちゃんの気持ちは?三浦先生のこと好きなの?」
 「うーん。好きか嫌いかと聞かれたら好きです」
 「じゃあ、彼とキスしたいとか抱かれたいとか思う?」
 「ゆ、有希さん!一体何を…」

 菜乃花は顔を真っ赤にして絶句する。

 「いい大人なんだもの。当たり前でしょ?」
 「そんな…。全然そんなことは思ってませんでした」
 「あら、そうなの?」

 有希は、うーん…と考え込む。

 「菜乃花ちゃん、もう一度よく自分の気持ちに向き合ってみてね。雰囲気に流されたりしないで、自分の気持ちを大事にして」
 「はあ…、それはどういう?」
 「いいから!とにかく自分を大事にね」

 そう言うと、また連絡するね!と有希は電話を切った。
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