花咲くように 微笑んで
食事を終えると、菜乃花はバッグの中から新品の本を取り出して颯真に差し出した。
「え、こんなに綺麗にラッピングまでしてくれて。本当にいいの?新品の方をもらっても」
「はい。宮瀬さんのサイン本がもらえるなら、こちらをお渡しします」
「はは!本気なんだね」
「ええ。それに、読み込んである本の方が好きなんです。手に馴染んで読みやすいから」
本当は、颯真の部屋の匂いがしてなんとなく気持ちが落ち着くのも理由の一つだったが、それを言ったら気味悪がられそうで止めておく。
「そうなんだ。そこまで言われたら仕方ない。じゃあ、名前を書いてプレゼントするよ」
颯真は、菜乃花に貸していた方の本を手に、1ページめくった。
菜乃花が用意していたサインペンを渡すと、神妙な顔で名前を書こうとする。
「え、ちょっと待って!普通に名前書かないでくださいよ?」
慌てて菜乃花が声をかける。
「ええ?じゃあ、なんて書けばいいの?」
「サインなんですから、シュシュッて、かっこ良く書いてください」
「ええー!無理だよ、そんなの」
「雰囲気でいいですから。ね?シュシュシュッて」
「そ、そんなこと言われても…」
「ちゃんと読めなくてもいいですから。ほら、早く」
颯真は眉間にしわを寄せながら、なんとなく自分の名前を軽く書く。
「ええー?これだと読めちゃう。もっとこう、なんだかよく分からない感じで書いてください」
「は?そんなの無理だって」
「いいから、はい。2冊目」
颯真は更に眉根を寄せて、少し雑に崩して名前を書いた。
「うーん、新人作家の初めてのサインみたい」
菜乃花は真面目に講評する。
「もうちょっとこう、こなれた感じが欲しいですね。既に何万回も書いて、書き慣れちゃってます、みたいな」
「えー?!無茶言わないでよ。サインなんて、今まで一度も書いたことないんだから」
「深く考えないでいいですから。名前を書くと思わないで。ほら『考えるな、感じろ』ってやつですよ」
「それはちょっと意味合い違うでしょ?」
「いいから!じゃあ、これが最後ですからね?」
「う、うん」
颯真は3冊目の本を前に、ゴクリと唾を飲み込む。
「行きます」
「お願いします」
二人で息を整える。
颯真がスッと手を本に添え、菜乃花はじっと固唾を呑んで見守る。
サラサラとペンを流れるように動かし、颯真は最後にゆっくりと手を離した。
「おおー、素晴らしい!これぞまさに売れっ子作家!」
「本当に?」
「ええ。サインだけ見ると、ベストセラー作家に見えます」
「嘘、そんなに?やった!」
二人は興奮して盛り上がる。
が、しばらくしてそんな自分達に苦笑いした。
「何やってるんでしょうね、私達」
「ほんとだよ。著者でもないのにサインして盛り上がって。著作権侵害に当たらないかな?」
「あはは、それは大丈夫だと思いますけど」
「ね、お願いだから誰にも見せないでよ?恥ずかしいったらありゃしない」
「ふふふ、分かりました。我が家の本棚に飾っておきます」
「飾るのもダメ!ちゃんと隠して」
「はーい」
にこにこしながら、菜乃花は満足そうにサインを眺める。
「あ、それじゃあ俺はそろそろ行くね」
腕時計に目を落として颯真が立ち上がる。
「はい。お時間頂いてありがとうございました。それに、サイン本も」
「ははは…。こちらこそ、新しい本をありがとう!身体、お大事にね」
「はい。ありがとうございます」
菜乃花が立ち上がって頭を下げると、颯真は優しく笑ってからカフェを出て行った。
「え、こんなに綺麗にラッピングまでしてくれて。本当にいいの?新品の方をもらっても」
「はい。宮瀬さんのサイン本がもらえるなら、こちらをお渡しします」
「はは!本気なんだね」
「ええ。それに、読み込んである本の方が好きなんです。手に馴染んで読みやすいから」
本当は、颯真の部屋の匂いがしてなんとなく気持ちが落ち着くのも理由の一つだったが、それを言ったら気味悪がられそうで止めておく。
「そうなんだ。そこまで言われたら仕方ない。じゃあ、名前を書いてプレゼントするよ」
颯真は、菜乃花に貸していた方の本を手に、1ページめくった。
菜乃花が用意していたサインペンを渡すと、神妙な顔で名前を書こうとする。
「え、ちょっと待って!普通に名前書かないでくださいよ?」
慌てて菜乃花が声をかける。
「ええ?じゃあ、なんて書けばいいの?」
「サインなんですから、シュシュッて、かっこ良く書いてください」
「ええー!無理だよ、そんなの」
「雰囲気でいいですから。ね?シュシュシュッて」
「そ、そんなこと言われても…」
「ちゃんと読めなくてもいいですから。ほら、早く」
颯真は眉間にしわを寄せながら、なんとなく自分の名前を軽く書く。
「ええー?これだと読めちゃう。もっとこう、なんだかよく分からない感じで書いてください」
「は?そんなの無理だって」
「いいから、はい。2冊目」
颯真は更に眉根を寄せて、少し雑に崩して名前を書いた。
「うーん、新人作家の初めてのサインみたい」
菜乃花は真面目に講評する。
「もうちょっとこう、こなれた感じが欲しいですね。既に何万回も書いて、書き慣れちゃってます、みたいな」
「えー?!無茶言わないでよ。サインなんて、今まで一度も書いたことないんだから」
「深く考えないでいいですから。名前を書くと思わないで。ほら『考えるな、感じろ』ってやつですよ」
「それはちょっと意味合い違うでしょ?」
「いいから!じゃあ、これが最後ですからね?」
「う、うん」
颯真は3冊目の本を前に、ゴクリと唾を飲み込む。
「行きます」
「お願いします」
二人で息を整える。
颯真がスッと手を本に添え、菜乃花はじっと固唾を呑んで見守る。
サラサラとペンを流れるように動かし、颯真は最後にゆっくりと手を離した。
「おおー、素晴らしい!これぞまさに売れっ子作家!」
「本当に?」
「ええ。サインだけ見ると、ベストセラー作家に見えます」
「嘘、そんなに?やった!」
二人は興奮して盛り上がる。
が、しばらくしてそんな自分達に苦笑いした。
「何やってるんでしょうね、私達」
「ほんとだよ。著者でもないのにサインして盛り上がって。著作権侵害に当たらないかな?」
「あはは、それは大丈夫だと思いますけど」
「ね、お願いだから誰にも見せないでよ?恥ずかしいったらありゃしない」
「ふふふ、分かりました。我が家の本棚に飾っておきます」
「飾るのもダメ!ちゃんと隠して」
「はーい」
にこにこしながら、菜乃花は満足そうにサインを眺める。
「あ、それじゃあ俺はそろそろ行くね」
腕時計に目を落として颯真が立ち上がる。
「はい。お時間頂いてありがとうございました。それに、サイン本も」
「ははは…。こちらこそ、新しい本をありがとう!身体、お大事にね」
「はい。ありがとうございます」
菜乃花が立ち上がって頭を下げると、颯真は優しく笑ってからカフェを出て行った。