花咲くように 微笑んで
 「あ、三浦先生!」

 菜乃花と別れてエレベーターに向かうと、ちょうど三浦が立っているのが見えて颯真は駆け寄った。

 「宮瀬先生、お疲れ様です」
 「お疲れ様です。鈴原さん、そこのカフェにいますよ」
 「え?そうなの?」
 「はい。今行けば会えると思います」
 「そうなんだ。じゃあ、ちょっと行ってみようかな。ありがとう!」
 「いえ」

 どうして菜乃花がカフェにいるのだろう?
 それにどうしてそのことを自分に知らせてくれないのだろう?

 そう思いつつ、三浦は菜乃花にひと目会いたくてカフェに急ぐ。

 (あ、いた!)

 奥のテーブル席に一人で座っている菜乃花を見つけて、三浦は足を進める。

 こちら向きに座っている菜乃花は、何かの本を手にしてじっと見つめていた。

 「菜乃花ちゃ…」

 声をかけようとした三浦の声は小さくなり、挙げかけた手は中途半端に下ろされる。

 手にしていた本を胸にぎゅっと抱え、見たこともない程幸せそうな笑みを浮かべる菜乃花に、三浦はなんとも言えない寂しさが込み上げてくるのを感じていた。
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