二人の永遠がこの世界になくても
劣等生の最終試験
あんなに暑くて息苦しかった夏が嘘みたいに終わって、今はかじかむ春華の指先の温度を忘れないようにギュッて握りしめるのが日課になった。

夏が終わっても、春華はまた花火がしたいなって笑った。

また新しい年が来たら、次の桜も花火も、「雪っておいしいのかな」って目を輝かせる春華も、もう見ることはできない。

春華は言った。
「制服を着なくなったヨヅキは何になるの?」って。

私は私だ。
制服を脱ぎ捨てたって、どこに居たって春華を想う気持ちに変わりがないのと同じで、私は私のまま。

だけど今なら分かる。
私はここまで一人で生きてきたわけじゃない。

どんなに家族が壊れていっても、たった一人で生き延びたわけじゃないし、“制服を着ている”特権に守られていたことも確かだ。

そして春華が、私との差に怯えていたことも。

この世界で私はどんどん大人になる。
春華は春華の世界で。
離ればなれになったら私達の時間は二度と交わらない。

この奇跡の一年間。
人を大切にするってことがどんな感情なのかを知った。

生きて、誰かに好きって言えることがどんなに素敵なことかを知った。

春華が目の前に居て、言葉を交わす。
当たり前のことが叶わなくなった時に「もっとこうしてれば良かった」なんて後悔してもどこにも届かない。

私は春華を失くしたくない。
この世界の誰よりも。

それはずっと変わらない。

この冬休みが終わって春になれば私は高校生じゃなくなって大人になっていく。
その時に隣には春華に居て欲しい。

十二月二十四日。
クリスマスイブ。

玄関でスニーカーの紐をしっかりと結んだ春華が「行こう」って笑って、私に手を差し出した。
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