二人の永遠がこの世界になくても
春華の手を離した。

代わりにギュッと体ごと抱きしめる。

一歩、離れて「春華、好きだよ」って笑ったら、「泣かないで」って春華は言った。

「春華が、」

「うん」

「春華が、元の世界に戻れますように」

時間が止まった気がした。
風の音がうるさいくらいに静寂だった。

春華と生きた今までの時間が全部ギュッて凍結したみたいに感じた。
溶けたらきっと、もう私の中には残っていない。

「ヨヅキ…?」

「春華が好きだよ。誰よりも…誰よりも誰よりも誰よりも、春華が大好き。だから私達、さよならしよう」

「なんで?ヨヅキが願えば俺は一生この世界でだって!」

絶対に忘れないと誓った、君と生きた時間のことも、私は嘘つきになって忘れていく。

大好きだったのに。
春華との差は埋まらないまま大人になる。

千年も先の人なのに、私のほうが過去だからずっとずっとおばあちゃんなんて変なの。

でもそれが正しい世界だ。
千年先の春華に私が残してあげられる物は、必ず芽生える君の命。

きっと春華も、私が知り得ない時間の中でがむしゃらに二人で繋いだ命を、私が知らない誰かと生きていく。

どんなに願っても恐れても拒絶しても、死を迎えない限り当たり前に歳を取って、新しい記憶を沢山刻み込んで。

それぞれの場所で春はやってくるし、夏になる。
もう二人が同じ物を見て感じることはできないけれど、この世界の一年間には君との時間が確かにあったんだよ。
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