二人の永遠がこの世界になくても
「夜月…ずっと我慢してたの?」

「…うん。本当はパパとももっと仲良くしてれば良かった。お姉ちゃんが荒れた時に全力でお姉ちゃんを止めれば良かった。一人でずっと家で待ってた時も本当は寂しいって、私をちゃんと見てって言えば良かった。ちょっとずつちょっとずつ我慢してたことが大きくなり過ぎてもう何も言えなくなってたの。もう私にできることは無い、これが家族の運命なんだって諦めたの」

ママがゆっくりと息を吐いて、言った。
子どもの頃の、優しいママの声だった。

「ごめんね。夜月。あなたから目を背けていて」

首を振る。ママの「ごめんね」が体中に染み込んでいく気がした。

「私、本で読んだのかな。映画かも。いつか家族なんてものはこの世界から無くなって、個々として生きていく。その世界にはただグループ分けされた組織があるだけで、誰かと一緒に居たければどうぞご自由にって。結婚や学校に通ったりするみたいにルールも手続きも無い。すごく自由だけど、私は怖いって思った」

「近未来が進みすぎたらそうなるのかしら」

「私はせっかくママの娘として生まれたのに、″家族″っていう血を分けた絆が確かにここにはあるのになんで諦めなきゃいけないの。大事なことならちゃんと話したい。苦しくてもう立ち上がれないなら私がママを支える柱になりたい。家族をやり直したいよ。ママと一緒に、もう一度」

ママとパパは去年の六月に離婚した。
パパの荷物が無くなった家は二人で暮らすには広すぎるし、声がよく響く。
ママは相変わらずリビングで寝ている。
パパが使っていた部屋、お姉ちゃんが使っていた部屋。二つも余ってしまった空間を、私達は持て余していたけれど、寄り添い合って二人だけの家をあたたかい物にしていけばいい。

「ママ、酷い親だったね。あなたには何をしても離れないでいてくれるって甘えていたのかもね。夜月はママの子どもである前に一人の人間なのにね…。夜月、ママはまだあなた達の親として、家族としてやり直せるかしら」

「っ…当たり前じゃん!」

なんでだろう。
誰かがそばで見守ってくれている気がした。

高校を卒業して、最初に私に残っているものは親友と家族だ。

大嫌いだった家族を、自分を、ただ息をして繰り返すだけの毎日を、私は必死に生きて、幸せだって、生きていて良かったって笑える未来を掴まなきゃいけない気がした。
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