二人の永遠がこの世界になくても
「よーづーきー!早く体育館行かないと式始まっちゃうよ!」

「んー」

三月三日。
桃の節句の日に、私は高校を卒業する。

もうすぐ卒業式が始まるのに、席から立とうとしない私を親友が呼びに来た。
開けている窓から吹き込む風はまだ少しだけ冷たい。

校庭の、まだまだ蕾が多い桜の木を眺めて、死にたかった一年前を想った。

今年も桜の木には満開の花が咲く。
来年もきっと。

どんな逆境に晒されても必ず咲く花を、私は生きていく希望に変えた。
この木は何年先まで桃色に色づき続けるんだろう。

もしも私に子どもができて、それから孫ができて、その先もずっと同じ桜がここに在り続けるのか、途方も無い未来のことを思って、一人でクスッとしてしまう。

「もー!さっきから何見てるの!」

左胸に「卒業おめでとう」のリボンをつけた親友が駆け寄って来る。

「あのね、コレなんだけど」

私は眺めていた自分のスマホを親友の目の前に差し出した。

「何コレ」

「ねぇ、なんで私こんなに自撮りしてんだろ。SNSにも載せたりしないのに」

「いや聞きたいのはこっちだって!めっちゃあるじゃん」

「そうなんだよね。桜とか花火とか海とかさ、春夏秋冬だよね」

笑った私の肩を親友がバシッと叩く。

「笑い事じゃないって!一人で楽しそうなのは結構だけどさ、一人でこんな笑ってたらちょっと怖いって」

「だよね」
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