二人の永遠がこの世界になくても
アニメみたいに、願いが叶う瞬間にキラキラしたり、虹色の光が差したりするわけじゃない。
日常と風景は何も変わらない。

おばさんだけが魔法をかけられたみたいに無表情で、「ちょっと待っててね」って言って、家の奥に引っ込んでいった。
男の子は「どうなったの?」って目を丸くして私を見た。

おばさんは紙袋を持って玄関先に戻ってきた。

「どうぞ」

その紙袋を男の子に渡す。
男の子が抱えるには大きい紙袋だった。

「私が持つよ」

紙袋を受け取った時には、既に彼の中には記憶が無かった。

「お姉ちゃん、誰?」

「え?」

「あら。夜月ちゃん、どうしたの?」

「え…、えっと…」

「あの!娘さん、お元気ですか?学校ではあんまり顔を合わせないから挨拶を!」

春華が隠れていたところから飛び出してきておばさんに言った。
不思議そうな顔でおばさんは「お友達?」って言った。

「そうです。私とクラスメイトなんです」

「そう。伝えておくわね」

「はい」

おばさんは春華がうちにやってきてすぐの頃、彼と会ったことがある。
なんて順応性の高さだと感心するくらい、存在をスッと受け入れていたのに、今は忘れてしまったみたいだ。

「その子は?」

「そこで遊んでた子です。ね?一緒にお話したかったんだよね?」

「…うん。僕、そこでお絵描きしてたんだ」

「まぁ!チョーク?」

「うん。でも明日は雨が降るよ。だから全部消えるよ」

おばさんがチョークの落書きに顔をしかめながらも、私に「また遊びにいらっしゃい」って言ってくれて、玄関のドアを閉めた。
男の子はなんでそこにいるのか理解できていなかったみたいだけど、「ママとスーパーに行く時間だ」って言って、走って行ってしまった。

私達は希望通り、制服を手に入れた。

次の日、雨は降らなくて、アスファルトにはチョークの落書きがしっかりと残っていた。
< 33 / 115 >

この作品をシェア

pagetop