二人の永遠がこの世界になくても
「いつもみたいに一緒に歩いてたら春華のこと知ってる人達にはバレちゃうよ」

「うん。だから今日からはヨヅキの登校にはついていかないよ」

「制服はなんの為?」

「潜入するんだ。ただ学校に居るだけ。教師だって全校生徒の顔なんて覚えてないだろ?制服さえ着てれば生徒なんだって思い込む。木を隠すなら森に、ね」

「そんな言葉知ってるんだ」

「千年後の未来にも図書館はあるよ。本の数は少ないけどね」

「えー?漫画や小説はどうやって読むの?」

「こんなやつ」

春華が指差したのは、学校指定の鞄に付けている、アクリルのキーホルダーだった。
透明の薄いアクリル板にキャラクターのイラストが印刷されている。

「それの文庫本サイズくらいのプレートを貸し出してる」

「一枚だけ?」

「そうだよ。タップしたら浮かんでくる。全然かさばらないし軽いし便利だよ」

「未来の人って天才じゃなきゃ生きていけないんだね…」

文明の利器が規格外過ぎてついていけない私に、春華はキョトンとした顔をした。

そうだよね。
文明の利器がどれだけ桁外れになったって知ったこっちゃ無い。
春華のほうが″バグ″なんだから。

「ヨヅキ、そろそろ出る時間じゃない?」

「え!?」

言われて時計を見たら、もう家を出る五分前だった。

「早く言ってよー!」

手を止めたのは自分なのに、春華に責任を押し付けながら慌ててヘアオイルを付けた。
ふわっと漂うオーガニックの香り。
今日は浸っている場合では無い。

鞄の中をサッと確認して、靴下を履いて部屋を飛び出した。

「ヨヅキ!」

「何!?」

「その髪、可愛いね」

「…もう!そういうこといきなり言わないで!」

「なんで!?ダメ?」

本当に春華は女心を分かってない!
可愛いなんて嬉しいに決まってるけど、それ以上の意味なんか無いんだから。

それ以上の意味を期待しちゃうって分かってないクセに。

春華のことは振り向かないで階段を駆け下りた。
絶対に赤くなってる顔を見られたくない。
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