二人の永遠がこの世界になくても
ようやく泣き止んだ私の頭を撫でて、春華が言った。

「何があったの。ヨヅキの家族は変だ」

「家族を知らないくせに」

「そうだけど、変だっていうのくらいは分かるよ。聞いたことのある家族とは全然違う」

「は…、あはは。愛情に溢れてて、一番の理解者で?何があっても一番に味方でいてくれる存在?」

「基本的には…そうだって聞いてる」

「あのね、春華。あなたが今ここにいる超常現象と同じで、自分の目の前に在ることだけが世の中の全てじゃないの。幸せな家族はみんな、自分の家庭が世間の常識だと思ってる。でもその思考って、そうじゃない環境の人間にとっては暴力と同じだよ。家族は幸せで在るべきだ。尊重し合うべきだ。そうできない家族も在るのに。もちろん、私のこの思考も傲慢だね。私の苦しみを一方的に理解しろって言ってんだから」

「ヨヅキ…どうしたの。ずっと苦しかったの?」

「苦しい…、どうかな。もう、忘れちゃった」

また雨が降り始めた。
窓を叩きつける雨の音。
嫌いじゃないな。一定で刻む雨のリズムは私を傷つけない。

「ママさんもパパさんも俺を受け入れてくれたよ。悪い人じゃないでしょ?」

「悪い人じゃない…のかもね。根本的には、そりゃ悪人なんかじゃないよ」

「何があったのか、俺には話せる?」

「…来て」

春華の手を引いて立たせた。
春華は黙って私についてきた。

パパの部屋の前。
春華は不思議そうに私を見ている。

「ここはパパの部屋」

「うん」

「不思議に思わなかった?ママとパパの部屋じゃなくて、パパだけの部屋なんだよ」

「そういうものなの?家族って」

あぁ、そうかって思ったら、自然と笑いがこみ上げてきてしまった。
春華は家族を知らない。

夫婦の寝室は同じ場合が多いなんて、それも私の勝手なイメージかもしれない。
でもうちには″ママの部屋″は存在しない。
私が小学生の頃は、一緒の寝室だったから。

ママは今はリビングで寝ている。
遅くまでお酒を飲んだり、夜が明けるまでゲームをしたり、布団なんて敷いていない。
万年、雑魚寝だと思う。

ソファの周りにはママの睡眠薬がいくつも転がっていることも、春華は気づいているかな。

きっと気づいていないし、視界に入っていたとしてもそれがなんなのか分かっていないだろう。
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