二人の永遠がこの世界になくても
「ヨヅキはどうしても俺がここに居るのは嫌?」

「嫌って言うか、シンプルに怖いよ」

「怖いの?なんで?」

「いきなり″うちの前にずっと居て可哀想だったから″なんて理由でしばらくうちで暮らすんだよ?春華が誰かなんて知らないのに。子どもだから大丈夫だなんて思えない」

「俺ってやっぱ子どもだよね」

「当たり前じゃん」

「俺は大丈夫だよ」

「何が?」

「俺は大丈夫。そのうち大丈夫だって分かるから。信じて」

彼の何を信じればいいんだろう。
初対面で、しかもまだ何時間も経っていない。

だんだん夢を見ているんじゃないかって思ってきた。
こんなことが現実なら、それこそ事件だ。

そっと春華に触れてみる。
後ろから髪の毛をちょっとつまんでみたら、よく知っている、ただ普通の質感だった。

「何?」

ベッドに寄り掛かるようにしていた春華が私のほうを振り向いた。

「なんにも」

「そう?」

指先に感じる感触は、確かに現実だ。
漫画の触り慣れた質感も、部屋の空気感も。

「いつまで居るの?」

「ヨヅキが俺を忘れる日まで」

「どういう意味?」

「そのままの意味だよ」

「よく分かんないけど…学校はどうするの?」

「さっきママさんに言ってた、″冬休み″って何?」

「何って…冬休みは冬休みじゃん。何言ってるの?春華…もしかして記憶喪失か何か?だから自分のおうちが分かんなくなっちゃったの?」

「え?んー、まぁ帰りたくないだけだよ」

「…変なの。来週にはうちの学校は冬休みだよ。中学の時も一緒だったよ。十二月二十三日が終業式」

「そしたら学校に行かなくていいの?どれくらい?」

「一月七日までが休みだけど…もしかして日本の学校に通ってないの?」

「内緒」

「何それ!だから怖いんだって」

「あはは。ごめんね。でもまだ内緒」

「もう好きにして…」

「じゃあ″冬休みが終わるまで学校には行かない″って上の者に伝えておきます」

「何それ。会社みたいな言い方」

階段の下からママが「ご飯できたわよー!」って呼ぶ声が聞こえる。

ママに聞こえるように返事をして、大きく背伸びをした。

私を真似して、春華も気持ちよさそうに背伸びをした。

「下りよっか」

「うん。俺、お腹ぺこぺこ」

「私も」

春華が何者なのか、なんでうちの前に居たのか、
謎は深まるばかりだった。

今まで普通の生活はしていなかった気がする。
私の暮らしや常識とは違う何か。

春華を信じても大丈夫なんて言えない。
でもどうやらこの状況は覆らないらしい。

どうせつまんない日常だ。
だったらバカになってノッてみるのもいいかもしれない。

私の気持ち、一つだけ。
そのおかしな決心だけで、ただ繰り返すだけの日常を変えられるなら。

「ハンバーグなんて初めて食べた」なんて信じられないことを言って、嬉しそうに食べる春華を眺めながら、私はゆっくりと決心をした。
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