二人の永遠がこの世界になくても
「は?」
「願って、そのあとに何があっても莉奈ちゃんはこの事は忘れて。絶対に」
「どういうこと?」
何もかもがが腑に落ちない。
納得なんてしてない。
こいつがどれだけ縋ろうが居場所がどうのと情けをかけてこようがなんにも響かない。
だけど悠長にはしていられない。
苦しそうな春華が「さむい…」って呟いた。
こんなに暑いのに。
震える春華の体を抱き締めて、私は言った。
「刺す前に戻れって言って!春華に向かって、もう神頼みでもなんでもしてよ!そしたらもうさっさと私達の前から消えて!」
「莉奈、こいつ何言ってんの?頭おかしいんじゃねーの」
「いいじゃん。試しにやってみれば?」
「はぁ?莉奈まで何言ってんだよ!」
男は苛立ちを隠せない感じでまくし立てて、莉奈ちゃんは、どこかさっきよりも楽しそうに男を挑発した。
「いいじゃん。本当に刺す前に戻れなかったらあんたは除籍。今度こそ親にも見放されてチームの誰もあんたの相手なんてしない。私だってあんたから離れちゃうかもよ?」
「おい、莉奈…冗談だろ………あーっ!もう分かったよ!オイ」
男はどうやら莉奈ちゃんの言いなりみたいだ。
今更私達に凄んで見せたってなんにも感じない。
どうでもいいからさっさとやって欲しい。
「莉奈に免じて今回は俺がバカになってやるよ!」
何言ってんだ。人を刺しておいて。
あんたは最初からずっとバカだよ。
「あーあ!俺がこいつを刺す前に戻んねーかなぁ!」
春華の右手を握った。
陽が暮れはじめている。
周りが暗くなれば春華の手の光に気づかれてしまうかもしれない。
でも、その瞬間に男はそっぽを向いてヤンキー集団の元へと歩いていく。
そこには私と春華、莉奈ちゃんだけが残された。
分かってる。
莉奈ちゃんの記憶は消えていない。
莉奈ちゃんの願いはとっくに叶えている。
もしかしたらと思っていたけれど、思った通り、そばで誰かの願いが叶っても、一度力を使った人間の記憶は消えないらしい。
私が友達の願いを叶えた時、ママは辻褄合わせで学校関連の記憶が消えた。
でもママ自身の願いを叶えたわけじゃないから春華のことを憶えているみたいだった。