二人の永遠がこの世界になくても
ママはまだ帰っていなかった。

リビングの電気をつけて春華をソファに座らせた。

「横になっててもいいよ。しんどいでしょ」

「ううん。体はもう平気なんだ。それに寝転んで話せるようなことじゃ無いしね」

「それもそっか。じゃあ待ってるから春華のタイミングで話して」

「うん。ありがとう」

春華は私が淹れたホットココアを飲んで、おいしそうに目を細めた。

私は無糖のアイスティー。
春華は夏でもココアはホットがお気に入りらしい。

「ヨヅキ、あのね…」

「うん」

「ずっと黙っててごめん」

「うん」

「俺、ほんとはさ…ヨヅキのこと知っててこっちに来たんだ…」

「…え?」

偶然でも無く、運命でも無く、春華は最初から自分の意思で修行の場を選んだってこと?
私を知ってたってどういうこと?

突然の告白に頭が混乱している。

「ヨヅキは俺に、“春華”って名前をくれた人だよ」

「…ちょっと待って。あげてないし、そんなの不可能だって」

「もちろんヨヅキが直接名付けてくれたわけじゃない。ヨヅキから“子孫”にずっと受け継がれていたことが、俺の名前になったんだ」

「ごめん。全然分かんないんだけど」

「うん、ごめんね。回りくどい言い方して。ヨヅキ、君は子孫を残すよ」

「誰の…?」

「それは俺にも分からない。分かってることは“母親”の遺伝子だけだから」

「だって春華の世界では家族は廃止されてて、遺伝子を提供してくれる人の情報も一切明かされないんでしょ?」

春華はもう一口ココアを啜る。
ゆっくりした動作が何故かおじいちゃんみたいに見えた。
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