二人の永遠がこの世界になくても
「俺の修行が決まった時、いつの時代のどこに行きたいかってリーダーが訊いてくれたんだ」

「適当に選ばれたんじゃなかったの?」

「うん。リーダーはおまじない好きだからね。適当に行くよりも特別感のある場所のほうがいいって。そのほうが俺も腐らずやっていけるだろうからって」

「優しいんだね」

「家族は居ないけど大事な仲間だから…。それで、普通だったら絶対に無茶なんだけど、どうしても俺の遺伝子の情報が知りたいって言ったんだ。本当は絶対に開示しちゃいけないことなんだけど、俺の力と“失敗”したことも関係して、今後の研究の為にも一度遺伝子を解明しようってことになって」

「教えてもらえたの?」

「うん。でも女性のほうだけね。男性はそもそも遺伝子提供の時に一切の身分表明を拒否してた」

「その女性が私の子孫ってこと…?」

「うん」

「じゃあ私と春華は…」

「…遺伝子を提供する時に、“もしも産まれた魂に受け継げる物があるなら、遺伝子の他に何を望みますか”って記入する項目があるんだ。稀にだけど、その希望も叶えられることもあって、その人は、こう書いてた。“春の華の生命力をあなたに”って…」

「春の華…春華の名前」

「それで俺が産まれた時にラボの人が俺に春華って名付けたんだ。春の華…それはつまり“桜”のことなんだって思った。俺も何度か映像では観たことがあったからさ。綺麗に咲いてもその姿は一瞬で、でも命が終わってしまうわけじゃない。一年をかけてゆっくりと生命力を蓄えて、次の春にはまた綺麗に咲く。そういう願いが込められてた。最初に“春の華を大切にしなさい”って言い聞かせてた人が居たんだ。その優しい想いは子どもからその次の子どもへ…千年かけてもずっと残り続けた」

「それがなんで私だって…」
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