どろびく(#We l♡ve draw a picture)
王国パロ 二話
「こっそり、こっそりだよ。抜け出そう」
自身の口元に人差し指を立て、静かに、とジェスチャーする兄に続いて庭の塀を越える。初めて見る“外”は、全てが輝いて見えたといえば、大袈裟に聞こえるだろうか。それほど眩しい世界は、三回目で閉ざされた。現王である父にバレたのだ。咳き込む私に手を上げる父から私を庇おうとする兄を捉えて、そのまま意識は落ちた。
✿❀✿❀✿❀✿❀✿❀✿❀✿❀
叉優「椿月、おそよう」
椿月「お兄ちゃん…?」
叉優「どっちかと言えば母では……!?」
椿月「…叉優だった」
短い針が2回目の5を通り過ぎた頃、椿月は長い夢から目覚めた。ぽやぽやしつつも、叉優の世間話に相槌を打ちながら寝台から起きる。叉優の淹れてくれた(愛情たっぷりの)紅茶を飲んでも、体のだるさがなくなる事はなかった。そんな椿月の様子を見、そういえばと、叉優はカレンダーに目を向けた。丁度、三ヶ月経つかな。
叉優「サクリファイス…?」
椿月「…そうだ…」
この世界には、男女とは別に分けられる第二の性がある。大体は、Pawn(ポーン)という普通の体質で、人口の6〜7割を占めている。そして、2.9割がRook(ルーク)といい、一つの異能を持って生まれてきた者達であった。異能の種は様々で、色々な方向に役立っていた。Rookも珍しいが、残り0.1割であるQueenは、更に珍しく、七国それぞれに一人ずつだと言われている。QueenはRookと同じく、一つの異能を使いこなせるのとPawn、Rookの数倍の身体能力や回復力を持っていた。そんな能力者達にも体に負担がかからない訳では勿論ない。三ヶ月に一度、Rookは体がだるくなり、Queenは一日中眠ってしまう。そういうデメリットも合わせて、世間では、異能力者と呼んでいた。その三ヶ月周期でくる体の不調をサクリファイスといい、サクリファイスの時は、しっかり休む事が義務づけられていた。
叉優「私と椿月はRookだもんね」
椿月「うん。正直、Pawnで生まれたかったよ」
叉優「あはは…でも、黒子と、確か隣国の王子も…Queenなんでしょ?黒子とかそんな感じないけど…大変なんだね」
椿月「え…?隣の国治めてるのは確かにカッコいいけど、女性だよ?声とかかわいい」
叉優「じゃあなんで王子とか呼ばれてんの…?」
✿❀✿❀✿❀✿❀✿❀✿❀✿❀
叉優「このへんから音がしたんだけど…」
椿月の部屋を後にした叉優は、つい先程した大きな物音の正体を突き止めようと思い、2階のあちこちを探していた。そして最後に残るのは、一度も入ったことの無い奥の部屋。好奇心に逆らえず、叉優はその部屋に一歩、足を踏み入れた。
叉優「書斎…?」
見渡す限り本で埋めつくされ、部屋の奥まで見ることのできない程の圧迫感。そんな中、棚の三列分、本が全て床に放り出されている箇所があった。この本達が落ちた音だったのだろうか。使用人である以上、そのままにはして置けない。本を一冊手に取り、棚に直そうとして、あることに気づき、小さく悲鳴をあげてしまった。
多量な本でわからなかったが、本の下敷きに人が倒れている。手しか見えないので、誰なのかや、生きているのかもわからない。もしかしたら手の作り物かもしれない。恐る恐る近いてみると、手が触れるすんでのところで、本の山がぴくりと動いて、ぴょこっと見知った顔がこちらを覗いた。
叉優「…く、くろこ…!?」
黒子「…んぃ〜?寝てた…?」
目を擦りながら、器用に散らばる本を避け、叉優の方に来る黒子は珍しく、真面目な顔で言った。
黒子「明日の夜から5日間、隣国の宿に泊まってて。5日後の夜まで、絶対ここに帰ってきちゃダメだよ。」
まっすぐ叉優を見据える黒子の視線は、叉優ではない誰かを見ている様な感じがした。
自身の口元に人差し指を立て、静かに、とジェスチャーする兄に続いて庭の塀を越える。初めて見る“外”は、全てが輝いて見えたといえば、大袈裟に聞こえるだろうか。それほど眩しい世界は、三回目で閉ざされた。現王である父にバレたのだ。咳き込む私に手を上げる父から私を庇おうとする兄を捉えて、そのまま意識は落ちた。
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叉優「椿月、おそよう」
椿月「お兄ちゃん…?」
叉優「どっちかと言えば母では……!?」
椿月「…叉優だった」
短い針が2回目の5を通り過ぎた頃、椿月は長い夢から目覚めた。ぽやぽやしつつも、叉優の世間話に相槌を打ちながら寝台から起きる。叉優の淹れてくれた(愛情たっぷりの)紅茶を飲んでも、体のだるさがなくなる事はなかった。そんな椿月の様子を見、そういえばと、叉優はカレンダーに目を向けた。丁度、三ヶ月経つかな。
叉優「サクリファイス…?」
椿月「…そうだ…」
この世界には、男女とは別に分けられる第二の性がある。大体は、Pawn(ポーン)という普通の体質で、人口の6〜7割を占めている。そして、2.9割がRook(ルーク)といい、一つの異能を持って生まれてきた者達であった。異能の種は様々で、色々な方向に役立っていた。Rookも珍しいが、残り0.1割であるQueenは、更に珍しく、七国それぞれに一人ずつだと言われている。QueenはRookと同じく、一つの異能を使いこなせるのとPawn、Rookの数倍の身体能力や回復力を持っていた。そんな能力者達にも体に負担がかからない訳では勿論ない。三ヶ月に一度、Rookは体がだるくなり、Queenは一日中眠ってしまう。そういうデメリットも合わせて、世間では、異能力者と呼んでいた。その三ヶ月周期でくる体の不調をサクリファイスといい、サクリファイスの時は、しっかり休む事が義務づけられていた。
叉優「私と椿月はRookだもんね」
椿月「うん。正直、Pawnで生まれたかったよ」
叉優「あはは…でも、黒子と、確か隣国の王子も…Queenなんでしょ?黒子とかそんな感じないけど…大変なんだね」
椿月「え…?隣の国治めてるのは確かにカッコいいけど、女性だよ?声とかかわいい」
叉優「じゃあなんで王子とか呼ばれてんの…?」
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叉優「このへんから音がしたんだけど…」
椿月の部屋を後にした叉優は、つい先程した大きな物音の正体を突き止めようと思い、2階のあちこちを探していた。そして最後に残るのは、一度も入ったことの無い奥の部屋。好奇心に逆らえず、叉優はその部屋に一歩、足を踏み入れた。
叉優「書斎…?」
見渡す限り本で埋めつくされ、部屋の奥まで見ることのできない程の圧迫感。そんな中、棚の三列分、本が全て床に放り出されている箇所があった。この本達が落ちた音だったのだろうか。使用人である以上、そのままにはして置けない。本を一冊手に取り、棚に直そうとして、あることに気づき、小さく悲鳴をあげてしまった。
多量な本でわからなかったが、本の下敷きに人が倒れている。手しか見えないので、誰なのかや、生きているのかもわからない。もしかしたら手の作り物かもしれない。恐る恐る近いてみると、手が触れるすんでのところで、本の山がぴくりと動いて、ぴょこっと見知った顔がこちらを覗いた。
叉優「…く、くろこ…!?」
黒子「…んぃ〜?寝てた…?」
目を擦りながら、器用に散らばる本を避け、叉優の方に来る黒子は珍しく、真面目な顔で言った。
黒子「明日の夜から5日間、隣国の宿に泊まってて。5日後の夜まで、絶対ここに帰ってきちゃダメだよ。」
まっすぐ叉優を見据える黒子の視線は、叉優ではない誰かを見ている様な感じがした。