春が追い付く二拍手前。

第十一章 師走

「メリークリスマス! フユちゃん、見てみて~!」

 朝っぱらから桜さんが、部屋をハイテンションで走り回っている。サンタさんにプレゼントをもらったのがよっぽど嬉しいらしく、プレゼントの箱を掲げたまま、くるくると踊るように走り回っていた。
 ちなみに、サンタは柾である。
 昨日桜さんが寝静まってから、コソ泥のように抜き足差し足で部屋に入ってきた時は、思わず吹き出して桜さんを起こしてしまいそうになった。

「そんなに走り回ったら、危ないですよ! 転びますよ」

 と、言ったのと、ぽてっと桜さんが転んだのは同時だった。

「……」

 急にシーンとなる部屋。多分泣き出す五秒前。
 私は、急いで耳をふさいで準備する。

「……」

 が、いつまでたっても、初撃の大音響が来ない。頭がキーンとなるから、一発目は必ず躱さなければならないのだが、それが来ないのだ。

「……いたた……転んじゃった」
「……え、大丈夫なんですか?」
「……何が?」

 きょとんと首をかしげる桜さんに、私は、「いえ…」と首を振る。
 桜さんは、転んだことなど、なかったかのように鼻歌を歌いながら、プレゼントの包みを開け始める。


「……」

 そういえば、もう来年の春から、小学生ですもんね……。

 いつまでも、転んだらすぐに泣くような子供のままではない。

 年月(としつき)の流れとは、遅いようで、ある日突然早いことに気づくものなのか。
悟った心地になり、私はしみじみとした。
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