リフレイン
「……こっちです」
屋内に入り、階段を登っていく。
一颯は、背後から聞こえてくる足音に合わせて、足を運んだ。
安置室に入ると、誰もいなかった。
「ご家族の方は……」
「両親には寝てもらってます。身体的にも、精神的にも疲れていると思ったので」
一颯の言葉に、簡単に相槌を打ち、理桜は秋希の元に向かう。
知っている寝顔がそこにはあり、ここまで来ても、秋希が息をしていないことが、信じられなかった。
「……触れても?」
振り向くと、一颯は手のひらで許可をする。
伸ばした指先は、怯えながら、秋希の頬に触れた。
温もりは感じられなかった。
理桜は一気に実感した。
それでも、涙を流しながら笑顔を作る。
「……久しぶりだね、秋希」
静まり返った室内で、理桜の鼻水をすする音が響く。
唯一、理桜を見守っている一颯は、視線を落としていた。
『理桜ちゃんは、桜みたいな人なんだ』
あの動画を撮ったとき、一颯は理桜の人となりが気になって聞いた。
その答えが、それだった。
『儚くて美しいってことか』
『それだけじゃない。理桜ちゃんは、一人で立つことができる強さのある女性だ』
『だから、病気のお前を捨てて、一人で生きる選択をしたと?』