リフレイン

 秋希の思いが無下にされた気分だった。


 だけど、理桜の真剣で、寂しそうな横顔を見ると、なにも言えない。


「私は、これからも秋希がいない世界を生きていくんです。無理に秋希の願いを聞いて、心を殺しながら生きていくなんて、できません」


『理桜ちゃんは、一人で立つことができる強さのある女性だ』


 それをひしひしと感じる佇まいだった。

 理桜は今一度、秋希の頬に触れる。


「……秋希、メッセージありがとう。私だって、秋希に全部気持ちをあげたいけど……怒られそうだから、やめておく。少しだけ、これから出会うかもしれない誰かに残しておくよ」


 理桜は一歩、後ろに下がった。


 動画の秋希と同じく、涙を浮かべながら笑顔を作る。


「バイバイ、秋希。大好きだったよ」


 そして安置室を出ていく理桜の背中を、一颯は見ていることしかできなかった。


 一人残った一颯は、ゆっくりと秋希に近寄る。


 止まってしまった、弟の時間。


 そうは感じさせない表情だが、触れれば嫌でも思い知らされる。
< 14 / 15 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop