リフレイン

 過去を懐かしむ彼女に、同調する声はない。

 花見の締めくくりは、桜の木を背景に、二人で撮った写真。微妙な距離感と緊張感が伝わってくる。


 これを撮る前に言われた言葉を、彼女は今でも忘れられない。


『好きだから、付き合ってほしい』


 告白してきた彼の表情は、写真には残っていない。だけど、鮮明に心に残っている。

 頬を紅く染めながら、幸せそうに微笑む姿。

 それがはっきりと思い出せるからこそ、胸が痛くて仕方ない。


 視界が滲んで涙が頬を伝っていこうとするのを、顔を上げることで堪える。桜の木を見上げることとなったその瞳は、切なさを物語っている。


 桜の木は、変わらずそこにあった。


「……君は、私たちの始まりと終わりを、見守ってくれたことになるね」


 見た者の感情すら落ち込ませる笑みをこぼし、彼女は視線を落とした。


 そして、感情の読み取れない顔に戻り、ページをめくる。

 そこにあるのは、終わりを知らない二人の、幸せに満ちた空間。羨ましくもあり、その未来を知っているからこその、絶望感のようなものもあった。



 夏。

 近所の祭りに訪れたときの写真。


「そういえば、私から誘ったの、この祭りが最初で最後かも」


 仕事終わりのデート中、夕飯を食べるための店を探していたはずが、遠くから聞こえる和太鼓の音に足が止まった。


『近くで祭りやってるのかな。行ってみない?』
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