リフレイン

 彼は断らなかった。


 無邪気に金魚すくいや射的をする姿、かき氷を食べて頭が痛そうにしている姿。どれも微笑ましいものばかりだ。

 そして、花火を見上げる横顔。

 空に広がる明かりに照らされた彼の切ない表情が、そこにはある。とても、綺麗な火花に見惚れているようには見えない。


 彼の写真に触れ、まるで伝染したかのように、彼女は苦しそうな表情を浮かべた。


「……いつも、寂しそうになにかを見上げてたのよね。今思えば、このときから別れたいって思ってたのかなあ……」


 彼女の声が、僅かに震える。すっかり暗くなってしまった夜空が、彼女の声をさらっていく。

 気持ちは落ち込んだまま、また新たな思い出が蘇る。


 それは、二人で休みを合わせて、向日葵畑に行ったときの写真。


『一面の向日葵、見てみたくない?』


 唐突な提案だった。

 彼女は花畑に興味なんてなくて、どうしてそんな誘いをされたのかわからなかった。


 だけど、目の前の、なにかを期待する目を見て、理解した。ただ、彼がみたいだけなのだと。

 その瞳に負けて、向日葵畑には電車に揺られて行った。電車から見える海にも、彼は虜になっていた。
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