リフレイン

「一本の桜に、一面の向日葵。そして、光が反射する海……あの人は本当、綺麗な景色が好きだった。おかげで、景色をスマホに収めることが増えてね。私のフォルダを見て、嬉しそうにしてくれるの、幸せだったな……」


 ずっと、写真の中の彼が、鏡のように彼女に反映されているようだ。思い出だけでなく、彼の表情の効果も相まって、ページをめくる手が軽くなる。


 次にあったのは、向日葵と背比べをしている写真。

 彼女は女性にしては長身のほうだが、向日葵はそんな彼女よりも背が高かった。

 そして彼も、向日葵に届いていない。彼は悔しそうに向日葵を睨み、見上げている。


『成長して、いつか追い越してみせる……』


 その独り言を思い出して、彼女は小さな笑い声をこぼした。


「私より少しだけ低い背を気にしてたなんて、知らなかったなあ」


 そう呟いてページをめくると、季節が移り変わる。



 秋。

 同棲を始めたことで、家での写真が増えていく。


 料理中だったり、それを食べる姿だったり、ソファでくつろいでいたり。


「同棲すれば、相手の嫌なところが見えてくる、みたいな話があってね? でも私は、真逆だった。彼の魅力をたくさん見つけて、どんどん愛しくなってたんだ」


 その想いが二度と届けられないと知っているからこその、切ない微笑み。

 それでも、幸せが滲み出ていた。


 家の中の写真には、たまに、小物の写真も挟まれていた。歯ブラシや、ペアのコップ。二人の記念品やお気に入りの物を並べたスペース。

 彼が、彼女と過ごせることを喜んでいることを教えてくれているような気がした。
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