リフレイン
「なんて、どれだけ考えても意味ないんだけど」
苦笑しながらページをめくると、もう、写真はなかった。
彼と迎えた二度目の春は、写真には残されていなかった。
「そっか……あのときの景色を、お互いに残さなかったものね」
彼女はアルバムを閉じる。
桜の木を見上げると、その奥に楕円のような月が輝いているのを見つけた。暗闇の中で、他者の力を借りて輝く月は、少しだけ彼女の心の傷を癒す。
彼女はゆっくりと目を閉じて、あの日のことを思い返す。
『お花見、行きませんか』
一年前と変わらないお誘いの言葉に、彼女は迷わず頷いた。
彼が浮かない顔をしていたことに気付きながら、桜を見れば復活するだろう、なんて思っていた。
『……別れたい』
到着して、ベンチに並んで座って、桜も見ないで言われた、予想もしていなかった言葉。
公園ではしゃぐ子供たちの声が、どこか遠くから聞こえてくるような気がしていた。
『……ごめんね』
彼女の反応が遅れたせいで、彼は言い逃げた。
彼女は、動けなかった。
彼がいなくなっても、追いかけることもできなかった。