ニセモノカップル。
嘘から出た実
朝起きて一番、冷たい水で顔を洗う。
腫れていた頬もだいぶよくなった。これなら、今日は問題なく学校に行けるだろう。
あれから、私のまわりは慌ただしくなった。
神楽くんに連れられていった病院で診察を受け、診断書をもらった。
それを学校にも提出したことで、今までの七瀬さんたちのいじめ行為はもちろん、神楽くんや凛ちゃんへの付きまとい行為が明るみになったのだ。
七瀬さんたちはしばらくの間、出席停止になった。
おそらく、もう戻ってきても今までのように好きにはできないだろう。
リビングに行くと、お母さんが心配そうに私に駆け寄ってきた。
「ちょっと、学校に行くの? 辛いならまだ休んでても……」
「大丈夫。行きたいの」
いじめが発覚したことで、もちろん両親にも知られることになった。
お母さんからは泣いて謝られた。いじめを黙っていることは、お母さん達を悲しませるんだとそのときにわかった。
バツゲームが始まったときに、もっと早く、ふたりに相談すれば良かったのかもしれない。
あたたかい朝ごはんを食べて家を出る。
午前八時。家の前に、神楽くんが待っていた。
「おっす」
「……おはようございます」
彼はいつものように、私に手を伸ばした。
私はその手を握る。少しだけ寂しさを感じながら。
「ほっぺた、大丈夫か?」
「はい。平気です」
沈黙が続く。わかっていた。私たちが最初にした約束を、達成してしまったことを。
ちゃんと、言わなきゃ。
「神楽くん。問題、解決しましたね。イジメもなくなって、七瀬さんたちも神楽くんを諦めました」
「……まだ、教室に行くまではわからないだろ」
「わかります。もともと七瀬さんたち以外からのイジメは、とうになくなってたんですから」
「……そうか」
「カップルの演技も、終わりですね」
私はそっと手を離す。本当は離したくないのだけれど。
「正直に言うと、七瀬さんに申し訳ない気持ちも途中からあったんです。付き合った演技をして失恋させる以外に、もっと方法があったかもしれない。だけど、私はイジメられている立場がいやで、そんなことを考えている余裕がなかったんです」
「……提案したのは俺だ。杏は悪くない」
「悪くなかったとしても、決して良い行動ではありませんでした」
少女マンガの主人公みたいに、ずっといい子じゃいられない。
私は、憎い人は憎い。なにかされたらやり返したい。
好きになったらいけない人を、好きになってしまう。
「だから、嘘の関係はもう終わりですっ」
私は彼より先に歩く。
目に涙が溜まっていくのがわかる。そんな顔を見せたらいけない。
「……嘘ついてるの、辛かったか?」
「そうですね。恋とか愛とかって、嘘をついたらいけないもののような気がしたんです」
「そうか」
瞬間、後ろからそっと抱きしめられた。
「だったら、今日から本当のカップルになればいい」
「……いつもの冗談ですか?」
「バカ、こんな冗談言わねぇよ」
信じられない。今の状況が嘘みたい。
私を抱きしめてくれている腕に、そっと触れる。
「なんとも思わないはずだったのに。なんでかな、すげー嬉しかったんだ。毎日一緒に居てくれることが。嘘で付き合っているのに、どんどん好きになっちまって、怖かった。だから、もう嘘の関係なんていらない。俺と……付き合ってほしい」
神楽くんも、私と同じように感じてくれていたなんて。
彼の指先が震えている。
「これからも、一緒にいてくれるか?」
「――よろしくお願いします」
頬が桃色に染まったのは、十二月の寒さのせいじゃない。
私たちは今日、本当のカップルになった。
腫れていた頬もだいぶよくなった。これなら、今日は問題なく学校に行けるだろう。
あれから、私のまわりは慌ただしくなった。
神楽くんに連れられていった病院で診察を受け、診断書をもらった。
それを学校にも提出したことで、今までの七瀬さんたちのいじめ行為はもちろん、神楽くんや凛ちゃんへの付きまとい行為が明るみになったのだ。
七瀬さんたちはしばらくの間、出席停止になった。
おそらく、もう戻ってきても今までのように好きにはできないだろう。
リビングに行くと、お母さんが心配そうに私に駆け寄ってきた。
「ちょっと、学校に行くの? 辛いならまだ休んでても……」
「大丈夫。行きたいの」
いじめが発覚したことで、もちろん両親にも知られることになった。
お母さんからは泣いて謝られた。いじめを黙っていることは、お母さん達を悲しませるんだとそのときにわかった。
バツゲームが始まったときに、もっと早く、ふたりに相談すれば良かったのかもしれない。
あたたかい朝ごはんを食べて家を出る。
午前八時。家の前に、神楽くんが待っていた。
「おっす」
「……おはようございます」
彼はいつものように、私に手を伸ばした。
私はその手を握る。少しだけ寂しさを感じながら。
「ほっぺた、大丈夫か?」
「はい。平気です」
沈黙が続く。わかっていた。私たちが最初にした約束を、達成してしまったことを。
ちゃんと、言わなきゃ。
「神楽くん。問題、解決しましたね。イジメもなくなって、七瀬さんたちも神楽くんを諦めました」
「……まだ、教室に行くまではわからないだろ」
「わかります。もともと七瀬さんたち以外からのイジメは、とうになくなってたんですから」
「……そうか」
「カップルの演技も、終わりですね」
私はそっと手を離す。本当は離したくないのだけれど。
「正直に言うと、七瀬さんに申し訳ない気持ちも途中からあったんです。付き合った演技をして失恋させる以外に、もっと方法があったかもしれない。だけど、私はイジメられている立場がいやで、そんなことを考えている余裕がなかったんです」
「……提案したのは俺だ。杏は悪くない」
「悪くなかったとしても、決して良い行動ではありませんでした」
少女マンガの主人公みたいに、ずっといい子じゃいられない。
私は、憎い人は憎い。なにかされたらやり返したい。
好きになったらいけない人を、好きになってしまう。
「だから、嘘の関係はもう終わりですっ」
私は彼より先に歩く。
目に涙が溜まっていくのがわかる。そんな顔を見せたらいけない。
「……嘘ついてるの、辛かったか?」
「そうですね。恋とか愛とかって、嘘をついたらいけないもののような気がしたんです」
「そうか」
瞬間、後ろからそっと抱きしめられた。
「だったら、今日から本当のカップルになればいい」
「……いつもの冗談ですか?」
「バカ、こんな冗談言わねぇよ」
信じられない。今の状況が嘘みたい。
私を抱きしめてくれている腕に、そっと触れる。
「なんとも思わないはずだったのに。なんでかな、すげー嬉しかったんだ。毎日一緒に居てくれることが。嘘で付き合っているのに、どんどん好きになっちまって、怖かった。だから、もう嘘の関係なんていらない。俺と……付き合ってほしい」
神楽くんも、私と同じように感じてくれていたなんて。
彼の指先が震えている。
「これからも、一緒にいてくれるか?」
「――よろしくお願いします」
頬が桃色に染まったのは、十二月の寒さのせいじゃない。
私たちは今日、本当のカップルになった。