ニセモノカップル。
ニセモノカップルの初日
神楽くんと初めての一緒の登校。彼は8時ぴったしに私の家の前で待っていた。
何気ない会話で間を持たせながら、中学校へ向かう。
「そろそろ手、繋ぐぞ」
「は、はい……」
朝、家を出る前に何度も手を洗ったけど、それでも手が汗ばみそうで怖い。
神楽くんは平然と私の手をとった。こうなったら先に謝っておこう。
「あ、汗かいたらごめんなさい!」
「別に気にしないけど。それよりさ、あんたの手、すべすべだね」
手なんて褒められたことがない。顔の中心に熱が集まってくる。
「あ、汗かいてきてる」
「も、もう! 言わないでください!」
神楽くんはククッと悪戯っぽく笑った。
彼って見た目と雰囲気で誤解されているけど、親しみやすいかも。
そんなことを考えていると、周りがざわついているのに気づく。
同級生も先輩も、私たちの方を見て驚いている。
逃げるように学校に向かう同級生もいた。
まぁ、私みたいな底辺女子と神楽くんが手を繋いでたら驚くのも無理ないよね。
「今日は教室まで一緒に行く」
「教室までですか?」
「あんた、いじめられてるんでしょ」
その行動の意味が理解できず、そのまま彼の言う通りにした。
校舎に入り、靴を履き替え、2年3組の教室の前に立つ。
この一ヶ月、このドアを開けるときには足が震えた。
今日はどんな『バツゲーム』が待っているのかと、逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。
でも今日は、神楽くんがいる。いつもより、怖くない。
友達もみんないなくなった私。誰かがそばにいてくれるという安心感は久しぶりのものだった。
「入るぞ」
「……はい」
教室のドアを開ける。
すでに登校していた生徒たちが、ギョッとした顔でこちらを見た。
ヒソヒソ声で何かを話しているのがわかる。
(なんで!?)
(昨日の噂マジだったってこと?)
騒然とする教室。神楽くんは私の耳元に顔を近づけた。
彼の吐息がかかってくすぐったい。
「あんたは先に座っといて。七瀬きららが広めた噂、この際だから利用させてもらう」
「利用……?」
私は自分の席に向かう。神楽くんは教壇の前に立った。
「お前らに言っておく。葉月杏は俺の女だ。手、出すなよ」
神楽くんの鋭い目が教室にいる全員に向けられる。
「もし、俺の女になにかしたら……わかるよな?」
ひっという短い悲鳴が聞こえた。
彼はニヤリと笑う。
「杏、昼休みも一緒に過ごそうな」
「へ!? は、はい!」
「それじゃあとでな~」
ヒラヒラと手を振って、彼は教室を出ていく。
しんと静まり返った教室。することもないので、私は一時間目の授業の予習をすることにした。
すると、私の机の前に数人の生徒がやってきた。
「葉月さん、ごめんなさい!」
「もしかしたらわたしたち、なにか誤解させてるかと思って!」
それは、かつて一緒に行動してた友人たち。田中さんと鈴木さん。
「最近一緒にいなくてごめんね。気分悪かったよね……」
「そんなことしたくなかったんだけど、ほら、七瀬さんたちがさぁ」
七瀬さんたちが怖くて私から離れるのはわかる。
だけど、あなたたちは覚えてないかもしれないけど、私は覚えている。
私が七瀬さんたちにひどいことされていたとき、笑ってたのを。
私がカンニングしていないと言っても、信じてくれなかったことを。
「だから、その、また友達にさ」
「まさか葉月さんが神楽くんと付き合ってるなんて知らなかったから」
「ね、わたしたちのこと、神楽くんに話した?」
引きつった笑みを浮かべる彼女たちに、なにか言う気も起きなかった。
静かな怒りだけが、チリチリと胸のなかで燃えている。
否定すればいいのか、怒ればいいのか。
でも、弱虫の私はなにも言えず、ただ机を見ることしかできなかった。
私が黙っているのを怒っていると勘違いしたのか、彼女たちは焦ったように何度も頭を下げて謝ってくる。
それに合わせて、教室にいた生徒たちも順番に謝りにきた。
みんな、神楽くんが怖いのだ。
噂での彼はすごい不良になっているから、そう思うのも当たり前なのかもしれない。
今までの扱いが嘘のように、私の機嫌を取ろうと必死になっている。
今まで、みんな私に嫌がらせをしていたのに。
神楽くんの一言で、ここまで態度を変えるなんて。
「もう、いいです……大丈夫です」
少しだけ投げやりになってそう呟くと、クラスメイトはみんな青ざめた顔をして自分の席に戻っていった。
なんだかスッキリしない。不思議な気分で、謝られてたとしても今さら誰かと仲良くしようなんて思えなかった。
教科書を読んでいると、七瀬きらら、早乙女みゅう、美波なみが教室にやってきた。
ほかの女子から話を聞いている様子だ。
こちらを睨んでいる。そうこうしているうちに、先生が教室に入ってきた。
さて、どうなるんだろう。
七瀬さん、私はあなたが命令した通り、神楽くんに告白したんだよ。
教科書のページをめくる指が少しだけ震えた。
何気ない会話で間を持たせながら、中学校へ向かう。
「そろそろ手、繋ぐぞ」
「は、はい……」
朝、家を出る前に何度も手を洗ったけど、それでも手が汗ばみそうで怖い。
神楽くんは平然と私の手をとった。こうなったら先に謝っておこう。
「あ、汗かいたらごめんなさい!」
「別に気にしないけど。それよりさ、あんたの手、すべすべだね」
手なんて褒められたことがない。顔の中心に熱が集まってくる。
「あ、汗かいてきてる」
「も、もう! 言わないでください!」
神楽くんはククッと悪戯っぽく笑った。
彼って見た目と雰囲気で誤解されているけど、親しみやすいかも。
そんなことを考えていると、周りがざわついているのに気づく。
同級生も先輩も、私たちの方を見て驚いている。
逃げるように学校に向かう同級生もいた。
まぁ、私みたいな底辺女子と神楽くんが手を繋いでたら驚くのも無理ないよね。
「今日は教室まで一緒に行く」
「教室までですか?」
「あんた、いじめられてるんでしょ」
その行動の意味が理解できず、そのまま彼の言う通りにした。
校舎に入り、靴を履き替え、2年3組の教室の前に立つ。
この一ヶ月、このドアを開けるときには足が震えた。
今日はどんな『バツゲーム』が待っているのかと、逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。
でも今日は、神楽くんがいる。いつもより、怖くない。
友達もみんないなくなった私。誰かがそばにいてくれるという安心感は久しぶりのものだった。
「入るぞ」
「……はい」
教室のドアを開ける。
すでに登校していた生徒たちが、ギョッとした顔でこちらを見た。
ヒソヒソ声で何かを話しているのがわかる。
(なんで!?)
(昨日の噂マジだったってこと?)
騒然とする教室。神楽くんは私の耳元に顔を近づけた。
彼の吐息がかかってくすぐったい。
「あんたは先に座っといて。七瀬きららが広めた噂、この際だから利用させてもらう」
「利用……?」
私は自分の席に向かう。神楽くんは教壇の前に立った。
「お前らに言っておく。葉月杏は俺の女だ。手、出すなよ」
神楽くんの鋭い目が教室にいる全員に向けられる。
「もし、俺の女になにかしたら……わかるよな?」
ひっという短い悲鳴が聞こえた。
彼はニヤリと笑う。
「杏、昼休みも一緒に過ごそうな」
「へ!? は、はい!」
「それじゃあとでな~」
ヒラヒラと手を振って、彼は教室を出ていく。
しんと静まり返った教室。することもないので、私は一時間目の授業の予習をすることにした。
すると、私の机の前に数人の生徒がやってきた。
「葉月さん、ごめんなさい!」
「もしかしたらわたしたち、なにか誤解させてるかと思って!」
それは、かつて一緒に行動してた友人たち。田中さんと鈴木さん。
「最近一緒にいなくてごめんね。気分悪かったよね……」
「そんなことしたくなかったんだけど、ほら、七瀬さんたちがさぁ」
七瀬さんたちが怖くて私から離れるのはわかる。
だけど、あなたたちは覚えてないかもしれないけど、私は覚えている。
私が七瀬さんたちにひどいことされていたとき、笑ってたのを。
私がカンニングしていないと言っても、信じてくれなかったことを。
「だから、その、また友達にさ」
「まさか葉月さんが神楽くんと付き合ってるなんて知らなかったから」
「ね、わたしたちのこと、神楽くんに話した?」
引きつった笑みを浮かべる彼女たちに、なにか言う気も起きなかった。
静かな怒りだけが、チリチリと胸のなかで燃えている。
否定すればいいのか、怒ればいいのか。
でも、弱虫の私はなにも言えず、ただ机を見ることしかできなかった。
私が黙っているのを怒っていると勘違いしたのか、彼女たちは焦ったように何度も頭を下げて謝ってくる。
それに合わせて、教室にいた生徒たちも順番に謝りにきた。
みんな、神楽くんが怖いのだ。
噂での彼はすごい不良になっているから、そう思うのも当たり前なのかもしれない。
今までの扱いが嘘のように、私の機嫌を取ろうと必死になっている。
今まで、みんな私に嫌がらせをしていたのに。
神楽くんの一言で、ここまで態度を変えるなんて。
「もう、いいです……大丈夫です」
少しだけ投げやりになってそう呟くと、クラスメイトはみんな青ざめた顔をして自分の席に戻っていった。
なんだかスッキリしない。不思議な気分で、謝られてたとしても今さら誰かと仲良くしようなんて思えなかった。
教科書を読んでいると、七瀬きらら、早乙女みゅう、美波なみが教室にやってきた。
ほかの女子から話を聞いている様子だ。
こちらを睨んでいる。そうこうしているうちに、先生が教室に入ってきた。
さて、どうなるんだろう。
七瀬さん、私はあなたが命令した通り、神楽くんに告白したんだよ。
教科書のページをめくる指が少しだけ震えた。