天妃物語 〜鬼討伐の条件に天帝の子を身籠ることを要求されて〜
「……さようなら、どうかお元気で」

 別れの挨拶をして深く頭を下げました。
 ゆっくり顔を上げて背を向けます。
 ……一人で歩きだす一歩が怖い。
 でももう決めたことです。
 私は振り切るように歩きだしましたが、その時。

「ははうえ、どこにいくんだ!」

 突然、背後から声をかけられてハッとする。紫紺です。
 振り返ると紫紺が(あせ)った顔で私を見ていました。
 寝殿(しんでん)から飛び出してきた紫紺は慌てたように息を切らし、帯紐(おびひも)で青藍をおんぶしています。
 青藍は眠そうな顔をしていますが、紫紺におんぶされたまま「ちゅちゅちゅ」と指吸(ゆびす)いをしています。
 内心動揺しましたが平静を装《よそお》いました。

「どこって……、買い物ですよ。足りない食材があったんです。それより青藍はお昼寝していたはずですよ?」
「おこした」
「起こしてしまったんですか?」
「そうだ。せいらんはオレのおとうとだからな」

 紫紺はそう言うと私に駆け寄ってきました。
 そして私を見上げてもう一度聞いてきます。

「ははうえ、どこへいくんだ」

 まっすぐ見つめられて内心の動揺が強くなりました。
 でもなんとか平静を(よそお)って、いつもどおりに答えます。

「買い物ですよ」
「……ほんとか?」
「本当です。買い物ですから、だからあなた達は戻っていなさい」
「いやだ。それならオレもいく! オレとせいらんもいく!」

 紫紺はきっぱり言うと私を通せんぼするように前に立ちました。
 利発な瞳でじっと見つめられ、胸が詰まりました。
 紫紺はとても頭の良い子です。察しもいいのできっと気づいている。何も言わないけれど気づいている。そんな気がしました。
 ならば一緒に連れていくことはできません。

「……いけません、帰りなさい。あなたはお留守番をしていてください」
「いやだ。いっしょにいく!」
「お願いですから、言うことを聞いてください」
「いやだ!」

 紫紺が大きな声で拒否しました。
 私は震えそうになる指先を握りしめる。
 駄目なのです。一緒に来ては駄目なのです。お願いだから……っ。
 私は厳しい顔で紫紺を見つめ、強い口調で突き放す。

「いけません。聞き分けなさい」
「っ……」

 紫紺が泣きそうな顔で唇を噛みしめました。
 今すぐ抱きしめたい。
 紫紺と青藍を抱きしめて、このまま二人を連れ去ってしまいたい。
 でも紫紺も青藍も天帝の血を引く子どもなのです。私の子どもだけど、私だけの子どもではありません。二人は黒緋が心から望んでいた子どもたちなのです。

「いいですね、ちゃんと戻るんですよ」

 私はそう言い聞かせると、二人の子どもに背中を向けて歩きだしました。
 前だけを見て歩きます。
 (うし)ろを振り返らずに前だけを。
 でも紫紺は唇を噛みしめて私の後をついてくる。
 おんぶされた青藍は「あー! あー!」と私の背中を指差しています。
 背後に二人の気配を感じるけれど振り返りません。
 私は逃げるように歩き続けたのでした。





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新年あけましておめでとうございます!
昨年は応援していただきありがとうございました!本当に励みになっているので心から感謝しています!
本年もどうぞよろしくお願いします!!

『天妃物語 〜鬼討伐の条件に天帝の子を身籠ることを要求されて〜』を読んでくれてありがとうございます。
あと少しで完結です。私は完全ハピエン主義なので、たとえどんな展開でも最後はハピエンです。どうぞお付き合いください。
また、この『天妃物語 〜鬼討伐の条件に天帝の子を身籠ることを要求されて〜』はカクヨムで現在開催中のカクヨムコン9に投稿しています。
カクヨムのアカウントをお持ちの方で、小説を読んでおもしろいと思っていただければ、どうか、どうか私に星を入れてください!一緒にブクマもしていただると嬉しいです!
私、カクヨムコンに投稿するのは初めてだったんですが、中間選考が読者選考だと知って震えました……。
投稿した後に「マジか……」てなりました。
今までエブリスタ中心で活動していたので、カクヨムという戦場に涙目になってます…。
どうかカクヨムのアカウントを持っている方で、『天妃物語 〜鬼討伐の条件に天帝の子を身籠ることを要求されて〜』を読んでおもしろいと思っていただいたなら、どうかどうか私に星とブクマをお願いします!よろしくお願いします!

また、短編で『午後三時七分の境界線』という小説もカクヨムコン短編賞に投稿しています。こちらもぜひ読んでいただけると嬉しいです!

今年もがっつり楽しく執筆を頑張ります!!
応援をよろしくお願いいたします!!
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