天妃物語 〜鬼討伐の条件に天帝の子を身籠ることを要求されて〜
「一緒に行きましょうか。私も紫紺や青藍と離れたくないんです」
「うん、ははうえといっしょがいい!!」
「あうあ〜! あい〜!」

 私は紫紺と青藍に笑いかけて、ゆっくりと立ち上がりました。
 青藍を片手に抱っこし、紫紺と手を繋ぎます。
 そして(みやこ)の正門を見つめました。

「紫紺、あの門を出ればもう(みやこ)の外です。もう(みやこ)に帰ることはありません」

 そう言って手を繋いでいる紫紺を見下ろします。
 紫紺は私をじっと見上げていました。
 幼いながらもまっすぐな瞳です。だから私も嘘偽(うそいつわ)りなく伝えます。

「あの門を出たら、もう父上には会えません。温かな寝床で眠ることも、お(なか)いっぱい食べることもできなくなります。それでも、それでもいいんですね?」
「オレはははうえといっしょがいいんだ! いっしょじゃないといやだ!」

 紫紺がきっぱり答えました。
 繋いでいる手にぎゅっと力をこめられて、私もぎゅっと握り返しました。
 抱っこしている青藍も「あぶっ」と私にぎゅっとしがみつきます。
 幼い二人の覚悟に胸がいっぱいになりました。
 きっと黒緋のことを生涯(しょうがい)忘れることはできないでしょう。どんな時もいただいた翡翠(ひすい)(くし)を握りしめて生きていくことになるでしょう。
 だって今も黒緋のことを思うと胸の痛みに苦しくなります。でもね、そんな時は嵐に()える草花のようにじっと(うずくま)って()えます。嵐は何度も襲ってくるけれど、そのたびに(うずくま)って()えるのです。
 それを何度か繰り返すうちに、いつか、いつか思い出にすることができるでしょう。私は一人ではないのですから。
 黒緋には申し訳ないことをしたと思っています。黙って出ていくこともそうですが、息子である紫紺と青藍を一緒に連れていくのですから。
 だからせめて私は紫紺と青藍に約束しましょう。
 この繋いでいる小さな手を、抱っこしている小さな体を、もう決して離したりしないと。

「紫紺、青藍、行きましょう」
「うん!」
「ばぶっ」

 私と紫紺と青藍は(みやこ)の正門を(くぐ)りました。
 そして、すべてを()()るように(みやこ)の外へ踏み出したのでした。




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