天妃物語 〜鬼討伐の条件に天帝の子を身籠ることを要求されて〜
「あまり火に近づいてはいけませんよ? 火傷でもしたら大変です」
「わかった。きをつける!」
「いい子ですね。寒くありませんか?」
「さむくない」
「お(なか)()いていませんか?」

 寝殿(しんでん)を出る時におにぎりを持参しましたが、道中でぺろりと食べてしまいました。育ち盛りの紫紺と青藍には少なかったかもしれません。
 でも紫紺は首を振ります。

「だいじょうぶだ。おなかへってない」

 紫紺がきっぱりと言いました。
 ……うそですよね。いつももっとたくさん食べるじゃないですか。
 でも私を困らせまいと平気な振りをしてくれるのですね。
 抱っこしている青藍は食欲よりも眠気のほうが強いようで、私の腕の中でうとうとしています。そんな青藍に今夜のところはほっとしました。
 私は紫紺を見つめて目を細めます。
 明日からの旅路は今日より厳しいものになるでしょう。()(あて)もなく、休める場所の目処(めど)もたてられず、食料を確保しながらの旅路になります。(まい)をしながら日銭(ひぜに)を稼ぐのです。

「……紫紺」
「なんだ」
「明日は今日より(つら)い思いをするでしょう。いいえ、明日だけではありません。この先ずっとです。それでも私と一緒にいてくれますか?」
「いっしょにいる! オレはぜったいははうえといるんだ! それに、オレはつよいからだいじょうぶなんだ!」
「紫紺……」

 きっぱり答えた紫紺に胸がいっぱいになりました。
 そうでしたね、あなたは強い子どもでした。

「ありがとうございます。私もあなたと青藍を決して離しません」
「うん、やくそくだぞ!」

 嬉しそうな紫紺に私は優しく笑いかけました。

「はい、約束です。では紫紺、こちらへ来なさい。そろそろ眠りましょう」

 そう言って手招(てまね)きすると、紫紺がすぐに私の隣にきました。
 青藍を抱っこしたまま紫紺の背中にそっと手を当てます。
 そうすると紫紺は照れくさそうにはにかんで私の膝を枕にしました。まるで子猫のように膝枕にすりすりされて、私はクスクスと笑います。
 さっきは強いんだと言っていたのに、こういう時は甘えん坊になるのですね。
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