天妃物語 〜鬼討伐の条件に天帝の子を身籠ることを要求されて〜
「ガキのくせに忌々(いまいま)しい神気だ!」
「ははうえにちかづくな!! えいっ、えいえいえいえい!!」

 紫紺が連続攻撃を繰りだしました。
 子どもながらも強力な攻撃に羅紗染が圧倒されだします。
 紫紺、あなたは気づいているのですね。
 私がなにを覚悟して羅紗染や四凶(しきょう)対峙(たいじ)するつもりか。だから私を一人で残すことを怖がっている。
 優しい子です。ほんとうに。

「あう〜っ」

 抱っこしている青藍が涙目で私にしがみつきました。
 離すまいとする小さな手に涙がこみあげます。

「あなたもそうなんですね。あなたも……っ」

 私は涙を拭うと紫紺を見つめました。
 小さな体で必死に戦っています。
 私と青藍を守るため、離れないために、これからもずっと一緒にいるために、あんな小さな体で必死に戦っているのです。

「うわああああ!!」

 紫紺から悲鳴があがりました。
 ハッとして見ると、羅紗染の邪気が発動して紫紺が追いつめられています。

「紫紺……!」
「ぅぐっ、ははうえ……!」

 紫紺は追い詰められながらも私を見る。でも次には羅紗染を睨みつけます。

「おまえは、オレがやっつけてやる……!」
「生意気なガキめっ。死ね!!」

 羅紗染の高まった邪気が紫紺に放たれます。
 咄嗟(とっさ)に紫紺が結界を張りましたが突き破られました。

「ああ紫紺……!」

 結界を突き破った強力な邪気が紫紺に襲いかかりました。
 駄目ですっ。絶対に駄目です!
 紫紺と青藍は私の宝物なのです!
 黒緋と離れ、ここで紫紺と青藍を(うしな)ったら私は……!

「紫紺!!!!」

 私の神気が高まって指先から放たれる。
 刹那(せつな)幾重(いくえ)もの色鮮(いろあざ)やかな布帯(ぬのおび)が紫紺を(つつ)んで守りました。
 私が神気を発動したのです。
 戦うために、守るために。
 そう、逃げるのではなく、逃がすのではなく、一緒に戦うことにしたのです。

「ははうえ……!」

 布帯(ぬのおび)がしゅるしゅると(ほど)かれて無事だった紫紺が見えました。
 私は紫紺に「大丈夫ですよ」と優しく笑いかけて、羅紗染を睨み据えます。

「あなた、私の紫紺になにするんですか」
「天妃め、大人しくしていればいいものをっ……」
「あなたこそ大人しく封印されていればいいものを」

 そう言って私は上から見下ろすような目線を羅紗染に向けました。
 羅紗染を見据えながらも、帯紐(おびひも)で青藍を手早くおんぶしてあげます。紫紺と青藍は私がちゃんと守ってあげるのです。
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