天妃物語 〜鬼討伐の条件に天帝の子を身籠ることを要求されて〜
「っ、このままだと……」
「オレがくいとめる!!」

 紫紺が結界を発動しました。
 すると四凶(しきょう)の動きが少しだけ(にぶ)る。
 紫紺は祝詞(のりと)(とな)えて結界の力を強くしていきます。
 私もそれに合わせて神気を強めましたが、瀕死(ひんし)の羅紗染がニタリと歪んだ笑みを浮かべました。

「無駄なことを、お前たち(ごと)きが四凶(しきょう)を食い止められるわけがないっ……。四凶(しきょう)ども、お前たちの力はその程度(ていど)か!! ここにお前たちの(あだ)である天妃がいるぞ!! 早く食い散らしてしまえ!!!!」

 羅紗染が血を()きながら怒鳴りました。
 それに四凶(しきょう)が頭をもたげ、羅紗染をぎろりっと睨んだ刹那《せつな》。

「ぎゃあああああああああ!!!!」

 窮奇(きゅうき)が巨大な翼を広げ、一瞬にして羅紗染を食い千切ったのです。
 転がり落ちた羅紗染の頭部を混沌(こんとん)(むさぼ)り食い、グシャッグシャッと骨と肉を()(くだ)く音がする。
 凄惨(せいさん)な光景に紫紺が驚愕(きょうがく)しました。

「ど、どうしてだ……っ。なかまだったんじゃないのか?」
「……四凶(しきょう)混沌(こんとん)そのものです。誰にも制御(せいぎょ)することはできないんですよ。そう、黒緋様さえも」

 だからかつての私は四凶(しきょう)を封じたのです。そして黒緋は四凶(しきょう)を討伐するために強い子どもを欲しました。
 羅紗染を食べた四凶(しきょう)に私の緊張が高まります。
 ……これは、よくない事態ですね。
 四凶(しきょう)は羅紗染を食べることで邪気を増幅しました。
 ビリビリした空気に呼吸が浅くなってしまう。でもここで(ひる)むわけにはいきません。
 四凶(しきょう)が羅紗染に標的を変えてくれたことで今はひと息つけましたが、次に襲ってきた時が勝負になるでしょう。
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