天妃物語 〜鬼討伐の条件に天帝の子を身籠ることを要求されて〜
「紫紺、無事だったか」
「うん!」
「よかった。本当によかった。ありがとう。よく鶯と一緒にいてくれた」
「ははうえとはなれたくなかったからな! ぜったいいっしょがよかったんだ!」
「そうだな、その通りだ。お前は誰よりも聡明で強い。俺の自慢の息子だ」
そう言って黒緋が紫紺を抱き上げました。
しかし吹っ飛ばされていた四凶が黒緋に襲い掛かります。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
「わっ、きた!」
抱っこされていた紫紺が慌てて結界を発動しようとしましたが、その前に。
「邪魔するなよ」
黒緋の強力な結界が広がりました。
黒緋の結界に四凶は跳ね返されて近づけません。
四凶がすかさず反撃しようとしましたが、地面から鎖が出現して四凶を拘束します。それは天上の武将である離寛の神気でした。
「今は邪魔してやるなよ。あいつ、ああ見えて結構必死だったんだぜ」
離寛が四凶に向かって言うと、次に私を見ます。「ほんとですよ。天妃様」とニコリと笑う。
あなた、天上で見た時とあまり変わりませんね。私は後宮にいたのでそれほど対面したことはありませんが、彼は黒緋の友人なので初対面というわけでもないのです。
でも今、私の頭は真っ白です。
……どうして、どうしてここにいるんですか。どうして、あなたが。
私は夢でもみているのでしょうか。
黒緋は片腕に紫紺を抱っこし、私をゆっくり振り返りました。
「……黒緋さま……」
言葉が詰まってでてこない。
私はどんな顔をすればいいのでしょうか。どんな言葉を口にすればいいのでしょうか。
黒緋は私を見つめたまま歩いてきます。私へとまっすぐに。
でもふいに。
「あいあ〜っ、ばぶぶっ」
おんぶしている青藍が声を上げました。
黒緋も眉を上げて青藍を見ます。青藍の頭を撫でようと手を伸ばしますが。
「……泣くか?」
黒緋が少し心配そうに言いました。
そうですよね、あなた青藍によく泣かれていましたからね。今まで泣かれても大らかに笑っていましたが、もしかしてずっと気にしていたんですか?
黒緋はおそるおそる青藍の頭に手を伸ばします。
ぽんっと頭に手を置く。
青藍がじーっと黒緋を見つめていましたが、少しして「ばぶっ、あーあー」と嬉しそうにはしゃぎだしました。
ほっと安堵した黒緋に、私はこんな時だというのに可笑しい気持ちがこみあげる。
でも笑おうとして瞳に涙が浮かびました。
声を出そうとしても喉に貼りついて出てこない。
「ぅぐっ、う……っ、うっ……」
嗚咽がこみ上げて唇を引き結びました。
言いたいことや聞きたいことがたくさんあるんです。
どうしてここにいるんですかとか、四凶の復活を許してごめんなさいとか、勝手に出て行ったことを怒っていますかとか、紫紺と青藍を勝手に連れ去ってごめんなさいとか、紫紺がとても強いんですとか、あなたって実は青藍に泣かれることを気にしてたんですかとか、そんな大事なことから少し気になったことまでたくさんあるんです。
でもどれも言葉にならなくて嗚咽だけがこみ上げる。涙が溢れて止まらないのです。
「うん!」
「よかった。本当によかった。ありがとう。よく鶯と一緒にいてくれた」
「ははうえとはなれたくなかったからな! ぜったいいっしょがよかったんだ!」
「そうだな、その通りだ。お前は誰よりも聡明で強い。俺の自慢の息子だ」
そう言って黒緋が紫紺を抱き上げました。
しかし吹っ飛ばされていた四凶が黒緋に襲い掛かります。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
「わっ、きた!」
抱っこされていた紫紺が慌てて結界を発動しようとしましたが、その前に。
「邪魔するなよ」
黒緋の強力な結界が広がりました。
黒緋の結界に四凶は跳ね返されて近づけません。
四凶がすかさず反撃しようとしましたが、地面から鎖が出現して四凶を拘束します。それは天上の武将である離寛の神気でした。
「今は邪魔してやるなよ。あいつ、ああ見えて結構必死だったんだぜ」
離寛が四凶に向かって言うと、次に私を見ます。「ほんとですよ。天妃様」とニコリと笑う。
あなた、天上で見た時とあまり変わりませんね。私は後宮にいたのでそれほど対面したことはありませんが、彼は黒緋の友人なので初対面というわけでもないのです。
でも今、私の頭は真っ白です。
……どうして、どうしてここにいるんですか。どうして、あなたが。
私は夢でもみているのでしょうか。
黒緋は片腕に紫紺を抱っこし、私をゆっくり振り返りました。
「……黒緋さま……」
言葉が詰まってでてこない。
私はどんな顔をすればいいのでしょうか。どんな言葉を口にすればいいのでしょうか。
黒緋は私を見つめたまま歩いてきます。私へとまっすぐに。
でもふいに。
「あいあ〜っ、ばぶぶっ」
おんぶしている青藍が声を上げました。
黒緋も眉を上げて青藍を見ます。青藍の頭を撫でようと手を伸ばしますが。
「……泣くか?」
黒緋が少し心配そうに言いました。
そうですよね、あなた青藍によく泣かれていましたからね。今まで泣かれても大らかに笑っていましたが、もしかしてずっと気にしていたんですか?
黒緋はおそるおそる青藍の頭に手を伸ばします。
ぽんっと頭に手を置く。
青藍がじーっと黒緋を見つめていましたが、少しして「ばぶっ、あーあー」と嬉しそうにはしゃぎだしました。
ほっと安堵した黒緋に、私はこんな時だというのに可笑しい気持ちがこみあげる。
でも笑おうとして瞳に涙が浮かびました。
声を出そうとしても喉に貼りついて出てこない。
「ぅぐっ、う……っ、うっ……」
嗚咽がこみ上げて唇を引き結びました。
言いたいことや聞きたいことがたくさんあるんです。
どうしてここにいるんですかとか、四凶の復活を許してごめんなさいとか、勝手に出て行ったことを怒っていますかとか、紫紺と青藍を勝手に連れ去ってごめんなさいとか、紫紺がとても強いんですとか、あなたって実は青藍に泣かれることを気にしてたんですかとか、そんな大事なことから少し気になったことまでたくさんあるんです。
でもどれも言葉にならなくて嗚咽だけがこみ上げる。涙が溢れて止まらないのです。