天妃物語 〜鬼討伐の条件に天帝の子を身籠ることを要求されて〜
「よ、よかった……。もう鬼はここにいないのですねっ……」
「大丈夫か?」
「はい、ありがとうございました」
「俺は何もしていない。お前の力だ」
「私の? ……そういえば鬼はどうして私たちが見えなかったんですか?」
「白拍子が笛を奏でていたからだ。本物の白拍子が奏でる音には結界の力が宿る。広範囲の結界術とはいかないが、奏者やそれに触れている者くらいは隠せる結界だ」
「初めて知りました……」
そういえば伊勢の斎宮には悪しき妖怪や鬼が出現したことはありません。それは斎王の力だと思っていましたが、毎日稽古に励んでいた巫女や白拍子の力もあったのでしょう。
「お前を探しているのは、どうやら鬼神のようだな」
「知ってるんですか!?」
「ああ」
黒緋が平然としたまま答えました。
鬼神と聞いても動じない黒緋に息を飲む。
鬼神とは鬼属性のなかでも高位の力を持っている鬼のことです。高名な陰陽師や巫女でも鬼神と聞いて震え上がらない者などいないくらいなのに。
もしかしたら……。
もしかしたら、この人なら……!
「あなたなら、あの鬼神を……倒せるんですか?」
ごくりっ。息を飲んで見つめました。
私の真剣な顔に黒緋は少しだけ眉を上げ、次いでふわりと微笑みます。
「もちろんだ」
なんでもないことのように黒緋が答えて、ああ……、ため息が漏れる。暗闇に一筋の光が差したよう。
脳裏に浮かぶのは、伊勢に残してきた斎王や巫女や白拍子たち。もしかしたら助けられるかもしれません。いいえ、きっと助けられます。
「お願いですっ。どうか力を貸してください!!」
私は床に両手をついて頭を下げました。
まだ出会ったばかりの黒緋にこんなことをお願いするべきでないことは分かっています。身勝手なのも無茶なのもすべて承知です。
でもこの一筋の光を逃したくありません。
「理由を話してくれないか?」
「黒緋様……」
「お前ほどの白拍子がここまで必死になる理由を知りたい」
「っ、……ありがとうございます。どうか聞いてください。今、私たちの故郷で起きていることを」
黒緋の優しさに涙が溢れそうでした。
ようやく見つけた希望に縋るように自分が逃げている理由を話します。
「大丈夫か?」
「はい、ありがとうございました」
「俺は何もしていない。お前の力だ」
「私の? ……そういえば鬼はどうして私たちが見えなかったんですか?」
「白拍子が笛を奏でていたからだ。本物の白拍子が奏でる音には結界の力が宿る。広範囲の結界術とはいかないが、奏者やそれに触れている者くらいは隠せる結界だ」
「初めて知りました……」
そういえば伊勢の斎宮には悪しき妖怪や鬼が出現したことはありません。それは斎王の力だと思っていましたが、毎日稽古に励んでいた巫女や白拍子の力もあったのでしょう。
「お前を探しているのは、どうやら鬼神のようだな」
「知ってるんですか!?」
「ああ」
黒緋が平然としたまま答えました。
鬼神と聞いても動じない黒緋に息を飲む。
鬼神とは鬼属性のなかでも高位の力を持っている鬼のことです。高名な陰陽師や巫女でも鬼神と聞いて震え上がらない者などいないくらいなのに。
もしかしたら……。
もしかしたら、この人なら……!
「あなたなら、あの鬼神を……倒せるんですか?」
ごくりっ。息を飲んで見つめました。
私の真剣な顔に黒緋は少しだけ眉を上げ、次いでふわりと微笑みます。
「もちろんだ」
なんでもないことのように黒緋が答えて、ああ……、ため息が漏れる。暗闇に一筋の光が差したよう。
脳裏に浮かぶのは、伊勢に残してきた斎王や巫女や白拍子たち。もしかしたら助けられるかもしれません。いいえ、きっと助けられます。
「お願いですっ。どうか力を貸してください!!」
私は床に両手をついて頭を下げました。
まだ出会ったばかりの黒緋にこんなことをお願いするべきでないことは分かっています。身勝手なのも無茶なのもすべて承知です。
でもこの一筋の光を逃したくありません。
「理由を話してくれないか?」
「黒緋様……」
「お前ほどの白拍子がここまで必死になる理由を知りたい」
「っ、……ありがとうございます。どうか聞いてください。今、私たちの故郷で起きていることを」
黒緋の優しさに涙が溢れそうでした。
ようやく見つけた希望に縋るように自分が逃げている理由を話します。