天妃物語 〜鬼討伐の条件に天帝の子を身籠ることを要求されて〜
「鶯」
「なんでしょう」

 返事をしながらも鶯の視線も意識も萌黄に注がれている。
 それに(わず)かな嫉妬を覚えてしまう。
 鶯と萌黄は天上と地上に別れながらも、姉妹の絆は固く結ばれたままなのだ。

「萌黄はそんなに心配しなくても大丈夫だぞ。そこまで見張らなくてもいい」
「見張っているのではありません。私は姉として見守っているのです」
「……分かった、見守っているとしよう」

 黒緋は即座に言い直した。
 せっかく戻ってきた鶯の機嫌をこんなことで損ないたくない。

「だが、萌黄は本当に大丈夫なんだ」

 黒緋は(なだ)めるように言うと鶯を見つめる。
 近い距離で見つめあうと、鶯の頬がじわじわと赤くなりだした。
 その反応に黒緋は愛おしさがこみあげ、赤くなった頬にそっと触れる。

「萌黄はお前の双子の妹だ。そして今もこれほど愛されている」
「どういう意味です?」
「そのままの意味だ。歴代斎王のなかで天妃の加護(かご)をこれほど(あつ)く受けているのは萌黄くらいだ。地上の誰よりも幸福が約束されている」
「あ、そういうことになるんですね」
「納得したか?」

 黒緋が鶯の顔を優しく覗きこむ。
 すると恥ずかしそうに鶯は視線を伏せるが小さく頷いた。
 鶯は地上で人間として暮らした期間が長いので、時々自分が天妃であることを失念してしまうようだ。だが、黒緋にとってはそれがまた愛おしい。

「お前に約束しよう。萌黄が天妃の加護を受けて地上の誰よりも幸福が約束されるなら、お前を天上の誰よりも幸福にすることを誓おう」
「黒緋さま……っ」

 鶯は目を大きく見開いた。
 赤かった頬がさらに赤くなる。
 鶯は突然の誓いに驚くも、次には花がほころぶような微笑みを浮かべた。そして。

「では、私も。私もあなたの幸福を約束します」

 鶯も誓いの言葉を紡いだ。
 鶯の微笑みに黒緋は(まぶ)しそうに目を細めた。
 鶯が黒緋の笑顔を見つめていたいと思っているように、黒緋もまた同じように思っている。
 黒緋と鶯はそっと唇を重ね、見つめあったまま微笑みあう。
 そして二人は寄り添い、地上の幸福な景色を見つめたのだった。

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完結

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天妃物語を読んでくださってありがとうございました!
楽しんでいただければ嬉しいです。
本作はカクヨムのカクヨムコン9に投稿しています。
カクヨムのアカウントを持っている方で、少しでもおもしろいと思ってくださいましたら、どうか星をよろしくお願いいたします!ブクマも一緒によろしくお願いします!
初めてのカクヨムコンなので読者選考の壁に涙目になってます…。
おもしろかったと思ってくださいましたら、どうか星をよろしくお願いいたします!
感想などもいただければとても励みになります!こちらもよろしくお願いいたします!
https://kakuyomu.jp/works/16817330667765166518

この後は天妃物語のその後の話しを番外編でちょっと書こうと思います。
鶯が天妃として天上に帰ってきてからの話しです。
天帝が天妃溺愛状態なので、なんかいろいろ大変な天上界とかです。楽しい話しのネタが番外編用に一本あるんですよ。
カクヨムコンに投稿している作品なので本編完結にあわせて完結としましたが、このまま番外編を連載していきます。
どうぞもう少しお付き合いください。

短編で『午後三時七分の境界線』も読んでくれると嬉しいです。ホラー系です。おもしろいと思っていただけたら星をお願いします!
https://kakuyomu.jp/works/16817330667797176753

宣伝とお願いが多くてすみません。読者選考こわすぎて…。よろしくお願いします。
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