天妃物語 〜鬼討伐の条件に天帝の子を身籠ることを要求されて〜
「ふふふ、極端(きょくたん)ですね。そこまで大事にしてくださらなくても大丈夫ですよ」
「……加減が難しいな」
「おかしな人ですね」

 いつも大人の余裕のような鷹揚(おうよう)さのある人なのに赤ん坊の扱いに悩んだりして。でもそんな姿にすら愛おしさを覚えます。

「なあ鶯」
「なんです?」
「赤ん坊は丈夫(じょうぶ)そうか?」
「はい、丈夫(じょうぶ)な体の元気な男の子です」
「強くなりそうか?」
「きっと誰よりも強くなるでしょう」

 そう答えると、黒緋が私と赤ん坊を丸ごと抱きしめます。今度は優しく。

「最高だっ……。ありがとう、ほんとうにありがとうっ……!」

 黒緋の声は微かに震えていました。それは歓喜の震え。
 そして私の頬に触れて優しく微笑みかけてくれます。

「本当にありがとう。何度でも感謝させてくれ。丈夫な男の子を作ってくれてありがとう。俺とお前の相性はよさそうだ」
「黒緋様と私の、相性がいい……っ。そんなっ……」

 頬から耳まで熱くなりました。
 相性がいいという言葉だけで浮かれた気持ちになります。
 私はなんて幸せなんでしょうね。
 恋した相手の子を宿し、一緒に誕生を迎えられたのですから。
 黒緋はきっと私のことが好きなのでしょう。私が彼に恋しているように、彼も私に恋をしてくれているのでしょう。
 そうでなければこうして赤ん坊を望んでくれるはずがありません。

「あなたに喜んでいただけて嬉しいです」
「しっかり育てなくてはな」
「はい。私、がんばりますからね」
「ああ、頼んだぞ」
「もちろんです」

 そう言って黒緋に笑いかけました。
 この赤ん坊を大切に育てましょう。
 丈夫になるように、強くなるように。そうすれば黒緋はもっと喜んでくれるでしょう。私をもっと愛してくれるはずです。
 だって黒緋は私のことを相性がいいと言ってくれました。これってこの赤ん坊が黒緋の役に立つような強い子どもに成長するように望まれているということですよね。私に期待(きたい)しているということですよね。
 私は抱っこしている赤ん坊に頬を寄せて笑いかけました。

「生まれてきてくれてありがとうございます」

 ああどうか、この赤ん坊が強くなりますように。丈夫に育ちますように。黒緋の望むような子どもになりますように。
 恋って不思議ですね。なんでも出来そうな気持ちになるのですから。




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