天妃物語 〜鬼討伐の条件に天帝の子を身籠ることを要求されて〜
赤ん坊が生まれた翌朝。
朝陽の眩しさに重い瞼をぎゅっとしたけれど、すぐ側の小さな気配に飛び起きました。
「ああ、やっぱり夢みたいです……」
ため息とともに呟きました。
私の隣の布団には小さな赤ん坊が小さな寝息をたてて眠っていました。
この子は黒緋と私の赤ん坊。その名は紫紺。
昨夜、蓮の花から生まれてきたのです。
私と黒緋は赤ん坊を迎え、紫紺と名付けて育てることにしました。
「あなたは紫紺。紫紺というのですよ」
私は眠っている紫紺にそっと囁きました。
艶やかな黒髪、愛らしいつぶらな瞳をしているけれど目尻はキリッとして利発です。赤ん坊ながら綺麗な顔立ちをした男の子。きっと成長したら黒緋のような素敵な殿方になるでしょう。
でも今は赤ん坊特有のまろい輪郭と額が愛らしい。
「……うー……」
「あ、寝言ですね。ふふふ、赤ん坊とは寝言も可愛らしいのですね」
なんだか不思議な感覚です。まさか私が子育てをすることになるなんて。
伊勢の斎宮で白拍子をしていた時は想像もしたことがありませんでした。
私は初めての赤ん坊を見学していると、少しして眠っていた紫紺が顔をくしゃりとさせました。むずむず動いたかと思うとパチリッと目を覚まします。
「おはようございます。紫紺、よい朝ですよ」
そう言って顔を覗きこむと、つぶらな瞳と目が合いました。
紫紺が小さな手を私に向かって伸ばしてきます。
小さな指が愛らしい。私の指を差しだすと、紫紺の小さな手が指を握りしめてくれました。
指に感じる甘い締めつけに思わず口元が緩みます。
ああなんて可愛らしいんでしょうね。くすぐったい気持ちがこみあげます。
「ふふふ、抱っこしてあげます」
ゆっくりと小さな体を抱き上げました。
両腕に包むように抱っこすると、ふわりと甘い赤ん坊の香り。
昨夜生まれたばかりの紫紺はまだ片腕に収まるほど小さくて、強く抱きしめれば壊れてしまいそう。
「あうー、あー……」
「可愛らしい声ですね。もっと聞かせてください」
そう言って頬を寄せると私の顔をぺたぺた触ってくれました。
くすぐったさにクスクス笑っていると、今度は髪をぎゅっと握ってくいくい引っ張ってきます。